ホアンと稲垣夫婦のホームステイ日記

                                                   愛子 記

9月1日(土曜日)『la escuela comenzar』
さあ、今日からまた学校だ!
今朝ホアンは、やれ、めずらしや!一発で起きた!。
今日は始業式で昼までかな?

主人は今日明日と荒槙牧場でパラグライダーの体験会があるので、手伝いだ。
ホアンがいれば連れて行きたいところだろうが・・・・。

ホアンも久しぶりにクラスの友達に会うし、話がはずんでいつ戻ってくるかわからない。
家事を済ませたら、私も荒槙に行ってみようと思い、支度をする。
お昼のテレビを見ていたら、ついうとうとしてしまい、電動椅子に横になり寝てしまったらしい。
気がつくと目の前にホアンが立っている。「おかさん!」と声をかけてきて、”はっと”して目が覚める。
「ホアン!!早かったのね〜・・・」
今日は駅前の留学生会館でラトビアのアグネッセやマレーシアのポークーンと日本語の勉強を
しようと約束していたのだが・・・・「どうしたの、行かなかったの?」と聞くと
「お腹空いたし、学校がいつ終わるか分からないので、行くと言ってないから・・・」とホアン。
気が向かなかったのだろうか?学校を終えて真っ直ぐ帰って来たようだ。

ラーメンでも食べる?といいながら、延々学校の事等3時頃まで話をする。

今日はホアンのクラスに、新しい留学生(男の子)がカナダからやって来たそうだ。
他のクラスにも、タイの子とハンガリーから男女一人づつやって来たらしい。
体育館での始業式に、全員の前で紹介され、ホアンが来た時と同じように、自己紹介をしたそうで
「僕もその時の事思い出したよ」と懐かしそうな顔をする。

ホアンの日本語が随分上達した事を、担任の上西先生がびっくりされたそうである。
”ホアンすごいじゃないかー”の言葉に鼻高々のホアンである。

他にクラスの子で一年の留学生活を終えて帰って来た生徒もあるそうで、
3人新しい顔ぶれになったようだ。
カナダの子の後姿がジョー君にとっても似ていて、ぎくっとして、ジョー君の居ないクラスを
淋しく思ったそうである。

「ホアン!おかさんこれから、神の倉へ行くよ。おとさんパラグライダーの靴忘れてしまって
おかさん持って行くの待ってらっしゃるから・・・」と言うと、「僕も行く!ドライブだ」と喜ぶホアン。

ラーメンを食べさせて、お腹も落ち着いたので、神の倉へと出発する。
主人は荒槙での体験会が終わったら、神の倉で何本か飛ぶ積りの様だ。
早く靴を持って行かないと・・・・。ホアンをお供に神の倉へと急ぐ。

しばらく待っていると、荒槙から体験会を終えて、皆さんぞくぞく帰って来られる。
あまり良さそうな風ではないが、とにかくテイクオフまで上がらないと気の済まない
パラきちばかりだ。主人のボンゴに積めるだけ積んでテイクオフへ向う。ホアンも一緒に上がる。

   おかさん!僕ももうすぐここから飛べるね〜・・・!    広大の留学生です。ロシア出身です。僕はホアン!V

   う〜ん!結構高いなぁ〜!!    う〜ん!!遂に撤収かぁ〜!!

テイクオフの風は後ろが涼しいフォロー風で最悪状態。
納得出来ないパラきち達は、約1時間様子見。どうも今日はまずい。皆さん諦めて、下山する。
体験会で一日、立ち続けていた主人は腰が痛いと言う。
久しぶりにスーパー銭湯に行くか!と言うと、ホアン大喜びだ。

10時を約束して、男湯・女湯と分かれて行く。
私は10時に出て待っていたが、2人が出て来たのは、10時半であった。
2人共露天の椅子で熟睡していたそうである。お疲れ様!!
9月2日(日曜日)『participar de la parapente』
今日も荒槙牧場で体験会がある。今日は日曜日なので、昨日よりは参加者が多い。
私たちも手伝いのスタッフである。ホアンは夕べの内に体験者扱いで参加をお願いしたおいた。

9時半集合なので、ホアンを8時半過ぎ起こす。
割りと寝起きの良くなったホアンである。嫌!パラが特別なのだろう!!

今日も秋晴れのすがすがしい天気だ。パラ日よりとなりそうだ。
荒槙に着くと、体験会に参加の人やスタッフが既に集合している。

参加者はガムテープをもらって洋服に名前を貼り付けている。
比較的若い人が多いが、中年の男性の方も居られる。
今日は40名近くの体験者が参加している。10名位に分けてそれぞれのインストラクターの
ところで指導を受ける。最初は準備運動から始まり、パラグライダーの機体の説明、
そしてライザーの持ち方等の説明を受けると、ハーネスを付けてさっそく練習が開始される。

   今日はパラ体験会。まずは準備体操から!1、2、1、2・・・・    神妙にイントラの説明を聞く受講生。ホアン僕もうわかってるよ!

風はそれほどきつい程ではない。皆さん走れ!走れ!でキャノピーを立ちあげに苦労している。
主人は体験者の手伝いをしているので、私とホアンは一番高い所へ移動。
ホアンは既に何回も練習しているし、キャノピー立ち上げも上手である。
地森さんが、新人さんを指導されながら、ホアンの立ち上げを見てアドバイスして下さる。

   どうだ  うまいでしょう!    、クロス立ち上げもほら!この通り・・・。

   おお!!みんな一生懸命やってるなぁ〜・・・・。    ランディングもほら!この通り。白鳥の如くふわりとね!


午前中ほぼ一人で立ち上げる事だ出来るようになった体験者の皆さん。
午後からは一番高い所からのトライである。
昼食を終えて、ホアンの居る一番高い所から皆さん飛ばれる様になるので
それまで、めいっぱいホアンは飛ばせる事にした。
風も真っ直ぐに入って来て、絶好のコンディションである。
上手に立ち上げして、飛んでいるホアン。ランディングもスワンの如くふんわりと着地。うまい!
インストラクターの山本さんも下でそれを見ていて、「ホアン、上手くなったね」と言っておられる。

ホアンはとにかく早く神の倉から飛びたくて仕方ないようだ。
「だめ!だめ!」と荒馬を沈めるように、なだめすかす主人である。

食事を終えた皆さん、一番高い所へ移動して来られる。
それじゃーホアンもお腹空いたろう・・・・・と私たちは昼食を食べにテージャスランチに行く。

昼食を済ませしばらくしていると、風がだんだん悪くなって来たようだ。
体験者の人も立ち上げて走るものの、風が舞っているのか、すぐ下の方の草むらのい中に
ずぼずぼ・・・と転げこんでいる。
もうあまりよくなりそうにないと見られて、今日はこれでやめましょう・・・と代表の指示。
それぞれに4本から5本飛んで、体験者の皆さん満足そうである。

荒槙を終えて神の倉に移動する。
ホアンのタンデムを山本さんにお願いしたが、風も悪いし、体験会で疲れきった山本さん今日は中止!
市内のそば屋さんにみんなで行き、ホアンもおそば大好きなので、美味しいおそばを食べて帰る。

9月3日(月曜日)『ホアン先生』
今日から本格的に学校!
ホアンもなるべく早く起きようと、気持ち努力しているように見える。
前ほど、ホアン起こしに時間が掛からなくなった気がする。
それともホアンの寝が浅いのだろうか・・・?

今日からお弁当も持って行く。今までと同じお弁当箱に、桜の押し型を使ってご飯を入れる。
中にはホアンの好きな梅干を入れる。
ホアンは野菜、それも生野菜は”牛の食べ物!”と言って絶対食べない。
何とか野菜を食べさせようと、アスパラを肉ロールで巻いたり、いんげんをてんぷらにしたり工夫する。
とにかくお肉は好きなので、ホアンに野菜を食べさせようと思えば、お肉とセットにするに限る!

今朝はあいにく、冷蔵庫に野菜が無くて、手羽肉のフライ・いかリングのフライ・ウインナーソーセージと
肉けたものばかりになってしまった。
きっと残して帰るだろうな〜と心配だったが、持って帰ったお弁当を見ると、何一つ残さず食べて帰っていた。
それどころか「おかさん!もちょっと大きな弁当にして・・・ぼくお腹空いて・・・・・」と嬉しい事を言ってくれる。
彼も”食欲の秋”状態になったと見える。「よし!明日は一回り大きなお弁当箱に入れてやろう!!」

夕方ホアン帰りは遅かった。8時前である。
空手クラブに行ったのだろうか??いやいや稽古着は何も持って行ってないし
ホアンが空手に行ったとは、全く考えられない。

夕方お砂糖を買いに出ると、丁度ホアンがバスから降りて来た。
私の車を見つけて、手を挙げるホアン。「おかさんも、今帰った?」と聞く。

「ホアン今日、クラスの皆、ホームワーク、ホームワークで残ってやっていたので
ホアンも一緒に残り、話をしたりして遅くなった」と説明する。

主人も程なく帰って来て、遅い帰宅のホアンに「空手に行っていたのかと思ったよ」と
ホアンに話し掛ける。
今日皆んなはテストで、ホアンとカナダの”スチュアート君”は例によって図書室にやらされたそうである。
カナダのスチュアートは英語しか話せない。ホアンは彼の先生!と肩をいからせる格好をするホアンは
今スチュアートの日本語の先生である。

夕ご飯を食べながら、ホアンと空手クラブについて話をする。
この夏休みの間、空手の稽古に出たのは、たった1回だけ。その前から朝練には出ない。
午後の練習にも出ない。同じクラスのかこちゃんからも「どうしてホアン来ないの!」と言われて
いた様である。
この空手クラブに関しては、ホアンは少しどうするかを迷っている事を打ち明けた。
最初の意気込みは良かったのだが、プロテクターがコロンビアから届くのを待っていて
クラブに参加するのが大幅に遅れたホアン。
うまくクラブの皆さんの中に溶け込むタイミングを失ったようである。
何をするにも人間関係がうまくいかないと面白く無いもので、ホアンもだんだん空手クラブに
参加し辛くなってしまったようだ。
「もし、お父さんの助けが要れば、言いなさい」と伝えたが、『自分で結論を出す』と言うホアン
結論は任せる事にした。

2人は囲碁で今日の行事の締めくくりだ。
私は明日のお弁当の下準備をしてお風呂に入り、休む。

9月4日(火曜日)『K−1稽古日』
今日はK−1の稽古日だ。学校のリュック,それにナイキのお気に入りのバッグに
K−1道具を入れふたつ抱えて、出かけて行った。
所が、しばらくして、戻って来た!また忘れ物か??と玄関走って出てみると
「K−1の時着るハンズボン忘れた!」と言う。自分で引き出しを捜している。

すぐに引き返して行こうとするホアンに主人「下温品まで送ってやろう!」
ホアンも安心して一緒に出かけて行った。

最近、ホアンの日本語は一気に語彙も増えて、スムースな会話が出来る様になてきた。
わたし達との会話も殆んど理解出来る様だ。
漢字も少しつづだが覚えてきている。

今年12月にその”うでだめし”のテストが日本で行われる。
これは日本在住の外国人対象に、どのくらい日本語を理解出来るかまた漢字を
何文字位書けるかを問われる試験である。4級3級2級1級がある。
ホアンは3級を受ける予定だ。
夏休みの間に願書を買って来て、LPの方に記入の仕方につい教えて貰っている。

願書の締め切が6日と迫っている。先日もLPの方から、ずぼらなホアンを心配して電話頂いた。
願書も全部日本語なので、もう一度チェックして間に合うように出さなければいけない。
「ホアン、願書持っておいで、見てあげるから・・・」と言うと「おかさん、何処にありますか?」
のんきなホアンである。
よく読んでみると、写真も貼らなければならないし、郵便局で受験料を振り込んで、その領収書も
貼り付けて送付するようになっている。早く見ておいて良かった!!
「明日おかさん、郵便局から出しといてあげるから、受験料ちょうだい」と言うと、
財布をひっくり返して受験料¥5,420を出すが、100円足りない。
「いいわよ、おかさん出しといてあげる」
これで準備完了!後はホアンの努力で合格・不合格が判定される。
ホアン頑張って!!

夕食をホアンが帰る10時過ぎまで待っていると、10時過ぎホアン帰って来る。
今日はK−1のメンバーから一杯、一杯蹴ったり、ヒットされたらしい。
なんと言っても、男の子の一番大事な所をヒットされて、「プロテクターが要る!」と言っている。
太ももの横も打たれたようで、斜めになって歩いている。
やっている時は感じないようだが、終わって体の温度が下がったり、バスのシートから立つとき
うっ!と傷みが走るらしい。じゃー、エアーサロンパスを吹き付けておきなさい!と渡す。

今日はK−1の前に少し時間があるので、駅前のインターネットカフェに行ったようだ。
同じクラスの平田君(ニックネーム 会長)と一緒に行ったそうだ。
彼はこの夏イギリスに留学をしていた。どんな留学生活だったんだろう?

インターネットカフェに行ったら、15人の友達からメールが入っていたと言う。
一生懸命返事書いたけど、全部は書けなかった・・・・と言うホアンである。
ホアンはコロンビアでも超人気者なので、みんな淋しい!淋しい!という
メールばかりらしい。

夏休みを境にホアンの生活はなんだか大きく変わったような気がしてならない。
夏休みの間に海に行ったりして、友達の輪も随分広がった。
どちらかと言うと遊びたい症のホアンなので、2学期の彼の学校生活が
私は心なしか心配である。
日本に来てしばらくは、ほとんど家から出かけたがらないホアンにやきもきしていた
わたし達だったが、この夏休み、友達と大いに遊んだホアンは少し遊び癖がついてしまったようだ。
日本語も日常会話は、ほとんど理解出来るようになり、友達と一緒にいる事がとても楽しい様である。
学校が終わってもまともに帰ってこないのではないか??ととり越し苦労ばかりしている私である。


9月5日(水曜日)『願書提出』
無事12月に受ける日本語テストの願書を出し終えた。

今日は私はお稽古日。ホアンが私の居ない間に帰っては・・・と思いメモを書いて出かける。
夜、稽古を終えて帰宅すると、ホアンがなんだか、息使いも荒く主人と話をしている。
まだ学校の制服のままである。
「どうしたん?」と聞くと「ホアンも今帰ったんだよ」と主人。
どうやら、私の心配はあたりつつある・・・・。
今日はクラスメートとバッティングセンターへ行って今帰ってと言っている。
途中電話したけど、誰も出なかった・・・と言い訳をするホアン。

まあいいから夕飯にしましょう!と食卓につく。
バッティングセンターは海田方面のようで、とても楽しかったと目を輝かせる。

コロンビアでも学校から帰ると必ず友達が沢山寄って話をしたり、お茶を飲んだり
そんな時間を沢山過ごすらしいので、日本の様に学校が終わってまっすぐに家に帰るなんて
考えられないのだろうな〜・・・・・。

まあいろんな経験のひとつなんだから・・・と多めにみてやる事にする。
9月6日(木曜日)『』
昨日のリズムの稽古がきつかったか、朝つい寝過ごしてしまった私。
時計を見ると7時前である。

今からホアンを起こして行かせても遅刻は目に見えている。
諦めて私の出掛けにホアンを安芸府まで連れて行く事にした。
今日は雨なので、ホアンは私が寝過ごした事を喜んでいる。
早めに支度をして出かけたが、学校に着いたら8時半過ぎであった。
「ゴメンね!」というと「だいじょぶ!だいじょぶ!・・・」と笑っている。

                                               

夕ご飯の支度をして2人の帰りを待つ。
主人はたいてい7時半から8時の間には帰って来る。
今日もホアンは帰って来ない。8時を過ぎてもなんの連絡も無い。
ついに遊び癖がついてしまったか〜・・・・!
そうこうしていると、8時をだいぶ廻って電話だ。ホアンだ今日は何処に行ってるんだろう??
受話器を取ると、案の定ホアンの声「おかさん、今海田・・・・」
「いつも遅いのね!」と言うと「いつも?違う」と反論している。
「とにかく、気を付けて帰りなさい、お父さん達ご飯先に食べてるから・・・」と電話を切る。

結局家にホアンが帰って来たのは、9時半頃である。
ホアンもどこかで食べてきたようで、夕食は要らないと言う。
「ホアン、ちょっとそこへすわりなさい」と主人。
「ホアンは帰宅時間についてどう考えていますか?」と主人。
それを言うと、”今日帰った時間はK−1と同じ!”だという。
だから、K−1が終わって帰って来る10時過ぎまでは自分が遅く帰ったと言う意識は無いのだと
知り、私は愕然とした。

だから、ホアンは主人が何を言おうとしているのか、わからないのだ。

このところ毎日遅いホアンにわたし達は心配になり、ホアンと話合う必要があると思った。
そして私たちの思いを話し、約束事を設ける事にした。

火曜日と金曜日はホアンはK−1の稽古日だから、お父さん達は安心して待てるし、
ホアンがお腹を空かせて帰ってくるので、お父さん達はホアンと一緒に食事がしたいし
話も聞きたいので夕食は待っているよ。
それ以外の月曜と木曜日はホアンは学校が終わったら、何もなければ遅くとも7時から7時半頃には
家に帰ってこれるはずだ。だからお父さん達は夕食は待っている。でも今日みたいに、何も連絡が無い
何処へ行ったかもわからない。いつ帰るかも分からない状態では、2人共怒る事は分かるだろう?
もし、ホアンが考えてずっと、遅くなると思うのなら、せめて7時半ころまでに連絡を入れなさい。

ホアンに一番分かって欲しいのは、ここに生活しているのは、自分一人ではないのだという事。
ホアンの事を思いやり、心配している家族が居ると言う事をわかってほしい。
けれど、まだ彼は100%理解してはいないと思う。
  
                           

ホアンはコロンビアでは、家族との食事はどうなのだろうか?
考えて見ると、その事に関して訪ねた事が無かった。
「食事はお手伝いさんが作る」と言っていたし、ここにホームステイにやって来て
初めて包丁を持ったとも言っていた。お母様も一年の内ほんの数回しか料理をされる事は
ないらしい。
日本でも最近は働くお母さんが多く、殆んどの子供達は一人淋しく食事をすることも多いようだ。
私は家族がそろって食卓に付くと言う事は一番大切な事で、もし会話が無くても
そういう生活を続ける家庭の子はぜったい心豊かに育っていくと思えてならない。
特に年齢の浅い小さな子供達にとっては、何よりも大切な事だと思っている。

私たちがホアンの帰りを待たずに、先に食事をする事は容易い事だ。
「ホアンお帰り、先に食べたよ!」と言えばいいのだから・・・。
私たちの待つ事はホアンにとって負担なのだろうか?
もしコロンビアでの生活がそうであれば、もしかして負担に思えるかもしれないし
食事を待つ!事の意味はわかってもらえないかもしれない。
『僕の事なんか、ほっといてさっさと先に食べてくれればいいのに・・・』と思っているかもしれない。

事実、夜帰宅の遅いホアンを心配して、やかましく言った事があったが
電話して誰も出なかったので、おかさん安心して先に寝ていると思った。と言っていたし、
おかあさんホアンの事心配で寝られず、ベランダに出ていて、急いで電話でたけど切れたのよ。」
と言うと「どうして??先に寝ればいいのに・・・」と考えられないといった表情だった。

最近多い殺伐とした事件で報道されているのを聞くと、やはり心淋しい人たちが多い事に
気付かされる。

ホアンが日本にいる間に、何かそう言った事を心に植え付けたいと願うけれども
難しい事なのかもしれない。

9月7日(金曜日)『K-1 稽古日』
昨日の事が有り、何だか心が沈んでしまう私だが、話し合って約束もしたし、
ホアンも了解してくれた。
このところ、日も短くなり、早く日が暮れるようになった。
なるべく遅くならない様にホアンに帰ってほしい私たちである。

明るいうちにお店に入り買い物を済ませて出てみると、もう日が暮れていて
何だか心細くなってくる。

今日は金曜日、K−1の稽古日でホアンは10時過ぎと帰りが遅い。
私もゆっくりと夕飯の支度が出来る。
主人もおっとりがたなで帰って来る。

夕方マレーシアのポークーンから電話がかかる。
『ホアン、日本語勉強に来て下さい!』とお誘いの電話である。
先週学校からまっすぐ帰ってきたホアン。ラトビアのアグネッセもポークーンもホアンが
来るのを留学生会館で待っていてくれたらしい。
ホアンに言わせれば『僕は、学校がいつ終わるかわからないので、行くかどうかわからない
と言ったんだ・・・・』そうである。
しばらくポークーンと今度の日本語(漢字テストの事や、彼女の通う鈴ケ峰高校』の事など
話をする。ポークーンはとっても頭の良い子で、日本語もAFS生の中で一番よく理解出来る
そうである。漢字も彼女は2級を受けると言う。すごい!!
ホアンは大丈夫だろうか??

   


ホアンが帰るまでにお風呂や洗濯、掃除まで済ませてしまう。
10時半なのにまだ帰って来ない。外に出てホアンの帰って来る遠くに目をやる。
人の影はない。おかしいな〜??今日はちょっと遅い。
またお友達とどこかへ行ったのかな〜??でも連絡が無いし・・・・。
一旦家に戻り、居間に座る。あ〜ぁ、落ち着かない。また外に出て見る。
出たと思ったら丁度ホアンだ。帰った来た。「おかえり〜!!」 「あ、おかさん ただいま〜!」

顔に汗してヒーヒー言っている。
台所に入るや否や、主人の前で、「今日、K−1の先生、水曜日空手稽古にいらっしゃい」と言われた
と報告するホアン。
「え〜??!ほんとかぁ〜!!」と主人。
多分ホアンは強いし、素質があるので、先生も伸ばしてやりたいと思われたのだろう。
丁度、学校の空手クラブを続けるかどうかで、悩んでいた時だけに、吹っ切れたようである。

ホアンは幸運な星のもとに生まれて来た子の様に思える。コロンビアでも友達が言うそうである。
『もし、飛行機が落ちて、たった一人生き残ったとすれば、その一人はホアン、君だよ』って。
いままでも、そんな幸運な出来事が何度もあったようである。
たとえば、つい5分程まえまで、友達と一緒にバイクに乗っていて、ホアンが降りて、友達は
そのまま走って何処かへ行った。そしてその彼は大型の車とぶっつかって、
重症だった・・・とか沢山そんな話があるそうで、
『自分でも確かにそう思う』というホアンである。

K−1の今日の稽古の様子を沢山聞きながら、時計を見ると、もう12時近くである。
幸い明日は休みだ。ちょっと気分は楽である。

ホアンも夕食を済ませ一息付いて、下に降りて来た。
明日が休みなので、主人と囲碁をやりたがるホアン。
そうしていると、BSチャンネルで黒澤明の『七人の侍』の外国版『荒野の七人』をやっている。
みんなで見る事にした。
時々スペイン語が入るのでホアンも喜んで見ている。
やはり名作というものは吸い込まれるものである。
3人黙々と映画鑑賞である。・・・と言っても私は時々うつらうつら・・・していたが・・・・。
映画が終わったのは2時であった。
ホアン明日はどうする??『勿論、パラグライダー行きます!』とホアン。
じゃー8時半起きだぞ!と主人。
「お休みなさーい」ご機嫌良く二階に上がって行った。

9月8日(土曜日)『パラグライダー稽古
今日私はリズム体操の稽古。秋の発表会が近いので、平素の仕上がり具合を大先生が見て下さる日だ。
武道館へ10時なので、寝ているホアンは主人に任せて出かける。
あいにく雨模様なので、主人もゆっくりしている。

リズムの稽古を終えて、12時頃家に電話すると、主人は天候が悪いので
家でまだテレビを見ている様だ。ホアンも未だ起きていないと言う。
市内は全然雨など降っていない。午後から荒槙で練習出来るかも知れないというので
私も急いで帰宅する。

家に帰り簡単に昼食を済ませ、ホアンも起こす。
だめならお風呂にでも入って帰ろう・・・と言う事にして、ボンゴにパラを積み込み出かける。
途中神の倉を通るが、ランディング場には車は一台も無い。
やはり天候が悪いせいか、誰も来ていないようだ。

そのまま荒槙に直行。風は無い。
牧草地のコンディションは良さそうだ。無風だが足元はそれほど悪くない。
無風なら無風で立ち上げてテイクオフ出来る稽古をすれば良い。
無風で立ち上げて出る事が出来る人は神の倉でも数少ないので、
今日はホアンにそれを練習させるという。
ホアン一人が2〜3分で飛んでおりて、またヒーヒー言いながらキャノピーかついで
上がってくるのは可愛そうなので、私も無風立ち上げの稽古を一緒にやってみる事にした。
最初はホアンの使っている機体でトライしてみたが、ちっこい私には超オーバー重量の機体なので
とてもとても私の意のままにはならない。やっぱり自分の機体を担いで来る事にした。

   おとさん、見て見て!!こんな事も出来るんだよ〜・・・!    ホアンにいいとこ見せろよ〜!!

   よしよし!その調子!!もっとバックバック!!   へへへ・・・・こけちゃった!!

風は全然無い。ホアンはすごいパワーなので、腕づくで機体を立ち上げて飛び出して行く。
やっぱりすごい!これなら無風立ち上げは大丈夫、パーフェクトだ。
只、神の倉では走る斜面の距離が短いので、その点が問題だ。

   ホアン パーフェクト!!    ほら!余裕でしょ!!

休み休み練習をする。テイクオフの頂上は秋の風が心地良い。
今日は私たちの他に誰も居ない。
ホアンが思いっきり”ピ〜!!”と口笛を吹くあたりの山々にこだまする。
私も大きな声で”お〜い!!”と叫ぶと同じ様に”は〜い”と返って来る。
秋空も高くすがすがしい。ホアンはククタと言う町に住んでいるが、こんな田舎の景色も
大好きだと言う。
コロンビアでは、すこしはずれた森林の中に分け入ると、ゲリラの心配をしなければ
ならないような物騒な国なので、日本の平和は羨ましいに違いない。

そろそろホアンも疲れてきた。お昼もカップラーメンだけだったので、お腹も空いたようだ。
ホアンの大好きなスーパー銭湯に入って帰る事にした。

9月9日(日曜日)『パラグライダー稽古
今日は朝から秋晴れの良い天気。今日もホアンの稽古を荒槙でする積りだが
何はさておいても飛びたい主人。「ホアンは後からおまえが連れて来い!」と言い残し
あっという間に出かけて行った。
今日は夕方インストラクターの山本さんにホアンの仕上がり具合を見てもらう予定だ。
ホアンも日本に滞在する日が限られているので、一日でも早くA級・B級を取得して神の倉から飛びたいのだ

主人も山本さんも条件の良い時間帯は自分達が飛ぶ時間にとっておきたいので
ホアンをみてもらうのは夕方になる。

携帯で主人に様子を聞いてみると、あまり良い条件でも無いようなので
いまから出かけて主人と合流し、早めに荒槙に行き、ホアンの稽古を始める事にした。

ホアンを起こし一緒に出かける。

神の倉に着くと、主人は荒谷山に未だいる様だ。
私たちの到着を携帯で知らせると、いまからすぐ飛んで降りると言う。

今日はあまりサーマルも無く、条件はあまり良くないので、インストラクターの山本さんも
神の倉を引き揚げ、一緒に荒槙に向う。

一足先に着いた私たちはラージヒルに機体を広げ、準備をする。
荒槙にはプレジャークラブや広大生、松井さんの生徒、地森さんの講習生と
大変にぎやかだ。
ラージヒルに上がったものの、ホアンの機体を広げる場所が無い。
風は少し斜め方面からなので、端っこの方に機体を広げる。
山本さんも1本飛んで、下でホアンの飛びをチェックして下さる。
ホアンのハーネスに無線をセットする。山本さんの「準備が出来たらいつでもどうぞ〜!」の入管に
ホアン自ら、「出ま〜す!」と言わなければならないので、ホアンは未だ慣れないので恥ずかしそうだ。
昨日は無風の中の立ち上げで、ホアンはそこそこ満足の仕上がりだったが、今日はサイドの風で
どうも勝手が違って上手くいかない。それでも力づくで立ち上げて、修正しながら上手に飛び出して行く。
ランディングはふんわりと上手だ。下に飛んで降りると、二言三言山本さんからアドバイスを受けている様だ。

   「山本さ〜ん・・今から飛びま〜すぅ・・・・。」って言うの?    うんうん、風も良いのが入ってきたな!

3回位飛んだ頃。プレジャークラブも松井さんの所もみんな終了の様だ。
遂にはホアンの一人舞台になり、のびのびと立ち上げが出来る。

今日みてもらってすぐ合格という訳にはいかないのか、来週もう一度という事になった。
立ち上げに関して、神の倉は長い距離、助走出来ないので、悪ければ止める!と言う事も
考えなければならない・・・と山本さんから言われる。
ホアンは力づくでも立ち上げて出て行こうとする。それはスタチンにもつながるし、危険な事だ。
無理矢理飛び出して、スタチンするよりも、止める勇気が必要なのだ。

   あれ〜??こんなはずじゃー・・・・!    うん・・・今度はいいぞ!!

私たちが半年かかって出来た事をホアンはこの数日間で難なくやってのける。
さすが鋭いスポーツ感覚と頭の良さをフルに発揮しているホアンである。
何はさて置いてもやりたい!という気持ちが一番だ。

『秋の日はつるべ落とし』時間もいい様だ。今日はこれで止めましょう・・・と山本さん。
キャノピーをたたんで、皆で山本さんのアドバイスを聞き、神の倉へ一応帰る事にする。

神の倉では、まだ飛びたいフライヤーの面々がランディング場にたむろしている。
山本さんは自分のキャノピーを替えられたので、一回試し飛びをしたいと言われる。
ぶっ飛び覚悟でも飛びたい主人はさっとボンゴを出し、荒谷山へ上がろうとする。
『車の回収は、誰が?』 言わずもがなで、ホアンを連れて一緒に上がる。
既に吹流しも片付けられている。おもむろに箱から取り出し、また吹流しを
掲げる主人。「飛んで降りたら、これをまたもとの所へしまっておいてくれ」と
言い残し、2人共テイクオフして行った。
言われた通り吹流しを降ろそうとしていると、車の音。
未だ飛び足らない、中毒患者達がぞろぞろと上がって来ている。

   おとさんもパラ中毒重症患者だな〜・・・    僕もいまに仲間入りしそうだな〜・・・。
2人共無事メインランディングに降りたようなので、ホアンと一緒に引き返す。
「ホアンお腹空いた・・・」と言う。そうか〜・・・お昼はラーメンだけだったので、それもそのはずだ。
セブンイレブンに寄り、ホアンの好きなお弁当買いなさいと言う。
すき焼き弁当を買い、車の中であっという間に平らげた。

ランディング場では、久しぶりにプレジャーの美紀ちゃんが来ていた。
ホアンも以前彼女の花展に連れて行った事があるので、覚えている。
「こんにちわ!」と挨拶する。
ホアンはもう日本語が達者になったので、楽しそうに彼女と会話が弾む。
石田さんちのけんちゃんが犬を買ってもらったのを連れて来ている。
いっちゃんも犬にまとわりついて、楽しそうに遊ぶ。
すっかりいっちゃんは”建”にいちゃんになついてしまい、建君もいっちゃんを可愛がって、よく
面倒見ている。なんとなく微笑ましい光景だ。

   「チョコ!おいで・・おいで!」    いっちゃん、待て待て!!

   うぇ〜ん!!チョコがかぐったよぅ〜・・・・!    ちょこ!ちっちゃい子いじめちゃーダメでしょ!!

   チョコ「僕いじめてなんかいないよ」 いいないっちゃんはお母さんにあまえられて・・・・。    あ!いっちゃんのおとうさんだヨ・・・僕のおとうさんも降りて来た!

既に荒谷山からぶっ飛んで降りてきている主人。
あたりも薄暗くなり始めた。また来週を山本さんにお願いして帰路につく。