ホアンと稲垣夫婦のホームステイ日記

7月1日(日曜日)《ホアン誕生日パーティ》
夕べ遅かったが、寝苦しく早く目が覚めてしまった。
起きてみると、雨が降っている。時間がたつにつれて、激しく降る雨。
今日はホアンの誕生日パーティを我が家で行う。
あ〜あ、みなさん来て下さるのに、大変だな〜・・・と心配になる。
天気予報はだんだん回復してくるという事だったので、何とかお昼頃には
晴れてくれるといいのに・・・。

朝ご飯を食べながら、「もし、ホアンが早く目が覚めて起きてきたらどうしよう!」と私。
以外にこんな時に限って起きるからな〜と主人。
じゃー!ちょっと計画変更しましょうかー!

昨日池の水をかえて、鯉を殺してしまった主人。池の中がさみしいので
養鯉場へ鯉を買いに行ってくると言う。
ホアンを起こして、連れて行く事にした。そして、皆さんが来て下さる1時頃に
連れて帰ろうという事にした。
夕べ「明日は日曜日だから特別12時まで寝せてあげますからね・・」と
言っておいたので、今は未だ11時20分。
2階に上がって寝ぼけホアンに声を掛ける。『ホアン!12時、起きて頂戴』
『おとさん、need your help・・・immediately』と言って私は下に降りた。
ランチの支度で、台所の食卓の上はお皿やお盆で一杯。
今、台所に来られてはちょっとまずい!
immediatelyが効いたか、すぐ降りて来たホアン。
コーラ一杯飲ませ、朝ご飯も食べさせず,玄関で「おとさん車で待ってるから・・」
とか何とか言って家から押し出す。
『ホアンは出かけた。さあ!支度支度!』
主人の長椅子を片付け、二階から大きな机を下ろしてくる。
お皿、食器、お箸を並べる。
そうこうしていると、第一陣”ゆうや君とヨシ君”到着だ。
ゆうや君は自転車で海田の方から来る予定だったが、この雨で
ヨシ君と連れ立って、お父さんに送って来てもらったそうだ。

早く来てくれて良かった!手伝ってくれる?と早速、から揚げをヨシ君にしてもらう。
ゆうや君は、「おばちゃん、何か紙があったら、ハッピーバースデーって書こうか?」
と言うので、”それは良いね”と私。
「2階の方へ行って見て?何か大きな紙がころがってないかしら?」と言うと
ふすま紙の残りがどこかにあったのを見つけて来て、「誕生日 おめでとう Juan!」と
書いてくれる。そしてよし君と、一番良く目に付くところに貼り付けてくれた。

広島駅に12時集合予定の2陣の越君から電話が入る。
「何行きに乗ったら良いですかー?」「小河原行きに乗って、福木小学校前で降りてね」
と伝え、『着いたら迎えに行くから電話頂戴』と言っておく。
20分位して、無事着きましたと電話が入った。
ゆうや君が「僕、もう道わかるから、二人で迎えに行って来ます」と言ってくれる。
私が忙しそうにしているので、気を使ってくれたのね・・・。

ベランダで洗濯物を干していると、ワイワイとゆうや先頭にホアンの友達グループが到着だ。
”こんにちわ!こんにちわ!”とさわやか少年達だ。二階から駆け下りて出迎える。
「さあ!ここ涼しいから入って、入って!」とこの間取り付けたクーラーが早速大活躍だ。
皆さんと参観日や文化祭で顔は合わせているが、名前が分からない。
自己紹介をしてもらう。
リーダー的存在の"会長”こと平田君。
一番のりで来てくれた”ゆうや君”こと畠山君と”ヨシ君”こと吉田君。
ゆうやは皆から”お兄ちゃん!”と呼ばれている。とっても面倒見のいい、
心優しいゆうや君だ。

   僕”会長”こと平田です・・・。Este es Hirata   僕は”おにいちゃん”と呼ばれています・・。Este es Yuya

   僕 よし君です〜! Este es Yoshida   僕 おーちゃん!大久保でーす。Este es Okubo

ヨシ君は大人しいけれど、なぜか人を和ませてくれる存在。
私のから揚げのお手伝いを一生懸命してくれた。ありがとう!
毎日クラスで『きをつけ!礼!』を言うクラス代表格”コシ君”こと越山君。
彼はこのホアンの誕生会を隠密に段取りしてくれた。ほんとに有難う!!
とっても優しい”おーちゃん”こと大久保君。
マジックをしたり、いつも皆をすっとんきょうに笑わせる”もっとん”こと元安君。
そして嬉しい事にホアンと同じ留学生”ジョー”君も来てくれた。

   僕ホアン大好きの越山ですー。Este es Koshiyama   私の名前は元安。”もっとん”です Este es Motoyasu    

   My name is Joseph アメリカ出身です。   わたし の なまえ は ほあん です!   

「今ね、鯉を買いに行ってるから、帰ってこの部屋に入ったら
"!Feliz cumpleanos Juan!"ってスペイン語で一斉に言おうネ!」と言う事にした。
ところが、待てど暮らせどなかなか帰って来ない。
携帯で様子を聞くと、あと5分位で着くよ!と言っている。
玄関の皆さんの靴も片付けた。程なくバタンバタンと車が着き降りて来る。
先に私が玄関に出て、ホアンを誘導する。

”さあ!居間の扉を開けたホアン”
一瞬無表情。
”えー??どうして?”頭の上は???の様子。
飲み込みの早いホアン、すぐに事情がわかってか、にこにこにこ・・・・。
皆で誕生日おめでとうコールだ。そして拍手。
机の上には、!Feliz cumpleanos Juan!"と書かれたバースデーケーキ。
”おーちゃん”こと大久保君が18本のキャンドルに火を付けてくれる。
ホアン!One breathねと私。勢い良く”フーッ”と一息で18本のローソクの火は消された。
皆一斉に三三七拍子の音頭で拍手、ホアンも一緒に拍手。

おかさんありがとう!と言ってくれる。そして皆ありがとう、ありがとう・・・とホアン。
カンパーイ!!そして宴は始まった。
皆お腹空かして来ているので、手巻き寿司はどんどん売れていく。
ホアンは、お魚の吸い物を余り好まないので、若者向きに鶏肉のお吸い物にした。
皆さんお代わりまでしてくれて、本当に嬉しかった。

   さあ!食べて、食べて!!   皆さん お代わりしてちょうだいね〜!!

   ホアンの為にこんなに来て下さってありがとう!!   このから揚げ”よし”が揚げたんだよ!

皆さんお腹も落ち着いてきた。見れば用意した手巻き寿司のご飯も殆んどからっぽだ。
こんなに食べてくれて、ほんとに良かった!
ゆうや君が「おばちゃん、未だ有る?」と言って最後のお吸い物もたいらげてくれた。
「じゃーここ片付けて第二段に移るから、みんなゆっくりしててね」と片付け始める私。
感心な事に皆、銘々の使ったお皿、お箸等を片付け始めた。
おーちゃんはそれを集めて台所に持って来てくれる。私はすっかり感心してしまった。
そして、『ほんとに、みんないい子達・・・』と胸が熱くなって来た。

すっかりかたづいて、みんな思い思いにホアンと話したり、きたないホアンの部屋
探検に行ったり、ホアンのパラグライダーのビデオを見たりして楽しく過ごしている。
ずーとビデオを撮りつづけてくれていた主人、「じゃー私はそろそろパラグライダーに行きますから」
と言うと、”パラグライダー?”ってなんだろう?と不思議な顔の子供達。
そして、いっときパラグライダーの話に花が咲いてしまった。
主人もパラとなると中毒患者なので、暑く熱弁をふるっている。
子供達をすっかり巻き込んでしまった。ゆうやは「僕飛びたーい!」と言う。
すでにタンデムフライトをしたホアンは得意そうだ。

   さあ!ケーキだよー!!   ホアンは学校でも人気者だよー!!

   ゆうや!ねないでください!!   さあ!ケーキ切りましたよー!!

さあ、それじゃーケーキ食べましょうか?おーちゃんこのケーキ出してね。
おーちゃんは私のアシスタント。何でもすぐに駆けつけて手伝ってくれる。
何だか私の息子と錯覚してしまいそう。
ケーキも切ってね、と頼んでおく。やわらかいので苦心している。
外野席は「おまえ、なんじゃーそりゃーきれいに切れよ!!」とか何とかやじが飛んでいる。
台所で私の片付けが終わって皆の所に戻った時には、ケーキの姿は何処にも無かった。
ほんとに皆さん気持ちいいほどきれいにたいらげてくれる。

ゆうや君がプレゼントを出して来た!
大きな包みがホアンに渡される。ちょっと待って!カメラカメラ!ビデオビデオ!
ゆうやが手渡しホアンが受け取る場面はそのままストップ状態。
ホアンは面白く足まであげて次のプレゼントを受け取るしぐさをして笑わせる。
ホアンが頂いたプレゼントをお披露目する。
まあ!甚平さんに下駄にお扇子のセット。ジョー君からはクッキーと
ホストマザーからもプレゼントだ。ホアン幸せね!!
ホアンは作務衣大好きだ。甚平さんもほんとにうれしそう!。
みんなありがとう!ありがとう!とホアン。
ちょと、ちょと着替えて来ます・・・と友達と連れ立って自分の部屋へ上がって行った。
わたしもビデオを撮ろうと、しばらくしてホアンの部屋へ行ってみる。
もう既に着替えが終り、ホアン先頭にぞろぞろ友達を後ろに控えて降りて来るホアン。
扇子片手に得意満面おホアン。

   ウッシッシ・・・こ〜んなにもらっちゃったー!!   早く撮ってよー!手がだる〜い・・・

   は〜い!おすましねー!!   ヘイヘイ!!!ボラーレ!!

   ハハハ・・・・・   ・・・・・・・・

ホアンの部屋の大きなダンベルを持って降りて来て、うんうんうなりながら
持ち上げようとする友達もいる。
ケーキ腹も落ち着いたようなので、次はスイカだ。
おーちゃん!スイカ切ってくれるー?と私。
何と、おーちゃんのスイカの切り方がすごい。私は恥ずかしながら初めて見た。
(私が知らなかっただけかも・・・)
上手に全部ピラミッド型に均等になるように,切っていく。
「おーちゃん、それどこで覚えたの?」と聞くと、「僕はよくおじさんのところへ
遊びに行くから・・・」と言う。
きっと毎日家のお手伝いもよく出来ているのだろう。

   お・た・ん・じ・よ・び???日本語むつかちい!!   僕のフォストマザーからだよ・・・

   これ何て書いてあるの?ま・つ・り??   ただいまサッカー観戦中!

   ホアンにねー気付かれないかとねー・・・・   スマート ガイ 平田君!

   

スイカを食べて、音楽を聴いて、ウノのゲームをする子もいる。
ホアン得意の五目並べも始まった。
たぶんホアンの腕ならば、誰一人ホアンにはかなわないだろう・・・。
私も、おーちゃん、コシ君と対決する。
ゲームしながら、将来何になりたいの?とか、勉強何が得意なの?
等と色んな話を彼らとする。みんなざっくばらんに話してくれる。
コシ君はホアンがとってもたよりにしている友達だ。
彼は今スペイン語を一生懸命勉強して、毎日新しいセンテンスを
投げかけてホアンを驚かせている。
「コシ君コロンビアに行って見たいよねー」と言うと「僕,絶対行きたいです」と
目を輝かせて言う。彼は音楽系を目指している。
主人の妹が昔使っていた、ギターの調律も彼がしてくれたようだ。
   これプレゼント   これ芸者さんが持っている

   おいおい足に落とさないで   芸者は扇子・男はダンベル・・・15kgは重たいよ

   俺はもてないよ   こうやって持つのよ!!

   五目ならべはNO1だよ!   俺らはウノで勝負だ

先日の文化祭の彼ら製作のビデオ上映はとっても良かったので
私が褒め称えると、会長こと平田君が主になり、作り上げていった事もあり
目をキラキラ輝かせて熱く語ってくれる。彼はビデオ撮影、編集全て担当して
こんなにも立派な作品を仕上げていった。
「先生から、そろそろ遅いから帰りなさい!と言われるまで
毎日夜遅くまで頑張ったんだ。雨の日も撮影したよ」とおーちゃん。
最後の日の大入りだった時の感激など、手にとるように、彼らの充実感が
伝わってくる。「一生、忘れられない事ね!」と私。

矢野の方へ帰るもっとん君は3時頃、予定が有って帰ると言う。
ホアンのバースデーケーキを切って箱に入れて持たす。
ホアンは五目並べに興じているので、『ホアン!玄関まで送りなさい!』と怒る。
コシ君もホアンに付いてお見送りしてくれる。「じゃー!また明日!」と元安君は
帰って行った。

まだまだ居てほしいけど、もう7時をまわった。家の方も心配なさるだろう。
帰りをどうしようかと言っている。「送ってあげようか?」と私。
私はてっきりボンゴ車があると思っていたので、全部まとめて面倒見れると
思っていた・・・がファミリアしか無い。
さて・・・・何人乗るの?えー!6人?ギョー!!。
「いい?ポリスボックスの前通る時は、ちいちゃくなってねー・・・」と私。
助手席に会長!うしろにワイワイ言いながら、折り重なるように乗る5人。
出発するねー・・・。「みんなありがとう、来てくれてありがとう!」と手を振るホアン。
「ホアン、留守頼むね。おとさん帰られるから、お風呂湯入れておいてね」
としっかり用事を言いつける私。

有料道路の入り口でチケットを渡すと、おじさんが身を乗り出すように
超定員オーバーのこの車を見て「ウワー!!」と叫ばれた。
そこはかわいい高校生、ニコッと笑ってバイバーイ・・・。
6人もの若い命を預ったものの、こんな可愛い若者と一日過ごして
超ハイテンションの私はついついスピードが出てしまった。
「おばちゃん、けっこう飛ばすねー」とおーちゃんに言われてしまった。

広島駅でコシ君ジョー君とさようなら・・する。
府中では、おーちゃんとヨシ君がさようならー。
誰がおばちゃんと最後までデートしてくれるのー?と私。
最後まで迷っている会長。どうやら呉まで帰るので、どの駅で乗ろうかと迷っているみたい。
「一緒にホアンの家に帰ろう!明日早く駅へ送ってあげるから」と無理な事を言う私。
とうとう海田駅で降りて行った平田君。
ゆうや君は私が方向音痴なので、「ここを真っ直ぐ出たら大正交差点だから、
わかるよねー」と心配しながら教えてくれる。
ゆうや君はみんなが”おにいちゃん、おにいちゃん!”と言って慕っている。
きっと兄貴分でみんなの面倒を良く見る子なのだろう。
私もほんとに心優しい彼に接する事が出来てとっても嬉しかった。

今度次の日が休みの時、またみんなでおいでね・・・・。
それぞれみなさんを送り届けて、家に帰ったら8時過ぎだった。
ホアンはすでに机を片付けてくれていた。

今日はほんとに良かったねホアン。
忙しかった一日があっと言う間に過ぎていった。
!大好きなコーラを今日限り止めます!ホアン18歳の宣言である。
7月2日(月曜日)
昨日ホアンが出かけている時に、彼の親友Amyadからрェあった。
コロンビアでは、誕生日とか何かの記念日にはかならずパーティを
するらしい。ホアンは今日本にいるので、家族や親戚、クラスメートから
祝福の電話が相次いでいる。
Amyadもホアンに「誕生日おめでとう」と言いたかったのだが、あいにく
出かけていたので、話をする事が出来なかった。
代わりに私が沢山沢山話をしておいた。すでにAmyadと私はメール友達だ。
彼はいま、アメリカの大学に行っている。英語を勉強中だ。
ホアンが楽しみにしているから、必ず電話してやってね・・・と言って電話を切る。

コロンビアと日本の時間差は14時間。彼のクラスメートから電話があるのは
いいが、とんでもない時間にかかってくる。
ある時は真夜中の2時、ある時は朝起き掛けの5時半頃。
ホアンもちゃんと友達に言えばいいのだが・・・。
延々1時間も話をして、結局朝起きられないホアンになってしまう。
今朝はコロンビアのお母様から”ホアン誕生日おめでとう”の電話があった。
その後はおばさんやおじさんからもかかった様だ。
ホアンは寝が足らないと、本当に意識もうろう状態で、いつぞやみたいに
電話がかかって話をしたのに、全く記憶が無いという状態になってしまう。
少し病的な感じもする。
お母様からの電話はちゃんと思えていたようだったが・・・。

夕方帰ってホアンが,皆さんとっても楽しかったと言ってたよ・・・と報告がある。
また皆さんで来てもらえると、いいね。

                             
7月3日(火曜日)《!Feliz cumpleanos Juan!
今日が本当の誕生日。先日はクラスメートからの祝福を受けたホアン。

今日は元気に学校へ出かけて行った。
朝お弁当を作った時、彼の2段重ねのお弁当の端に、私の心ばかりの
お祝いの細工をした。
先日お花の教室で使ったガーベラがきれいだったので、花を摘み取り
花びらの一枚一枚に「お・た・ん・じ・よ・う・び・お・め・で・と・う ホ・ア・ン」と
マジックで書いて入れておいた。
この花を見ながら、ちょっとだけ美味しくお弁当を食べてくれるといいけど・・・・。

夕方家に帰って洗濯を入れにベランダに降りると、ホアンの部屋から音楽が
聞こえる。「おかえりー」とホアン。
そしてすぐに「今日学校で女の子二人レター」と言う。
ホアンのクラスメートの女の子が”ハッピバースデー”を祝ってくれたらしい。
よかったね!ホアン。
今日、越君電話くれました!と嬉しそうに報告してくれる。
「おかあさんも越君と話したい!」と言うと、ニコニコっと今度一緒にかけようと
言ってくれる。

夕飯にフォストファミリー私たちからの”おめでとう!”と言うことで小さなケーキを用意した。
ホアンが最後に食卓に来て、ぱっと見せようと思ったのに、一番乗りで来てしまった。
ケーキを見て、ニコニコッと笑っている。
18本のローソクを一息で消すホアン。ありがとう!とうれしそう。
毅も「ホアン、何歳になったん!」と聞く。「ホアン18さいになりました」と上手に答える。
コロンビアでは18歳で選挙権が与えられるらしい。
タバコは?お酒は?と聞くと、これまたダーダーで、法律も有ってないようなものらしい。
皆早くから、酒、タバコは吸うらしい。ホアンはどうなのかな?????。

我が家では主人もタバコは以前吸っていたが、もうやめて久しい。
息子の毅もまったく吸わない。
ホアンの話では、コロンビアの友達は殆んどみんな吸うらしい。
週末はパーティ、パーティなので、タバコも吸わざるをえなくなるのかもしれない。
早い子は12〜3歳からもう既に吸うらしい。

食後の娯楽囲碁に興じて、11時頃「おやすみなさーい」とベッドにあがって行った。
                                                   
7月4日(水曜日)[学校休んだホアン!]No ir a la escuela!

実は今日彼は学校休んでしまった。
夕べ遅くそれも2時頃電話。彼の誕生日お祝いコールだったので
私も眠い目をこすりながら、電話を受け彼に取り次いだ。
その結果、彼は寝不足でまったく朝起きられない。

今、安芸府は期末試験なので、ホアン達は図書館に追いやられ自習らしい。
試験は11時頃には、終りみんな帰るので、ホアンは全く自習する為学校へ
行くようなものになってしまう。
まあ仕方無いわ!私が鬼になって無理矢理行かせても・・・・と
つい私まで軟弱になって、学校休ませてしまった。
『まあ明日は行かせよう』と思いながら・・・・。

夕方帰ると、さっと玄関に出て来て、気まずそうなホアン。
「今日休みました・・」と言う。
起きて「おかさん!おかさん!」と捜したけど居ない(当然だ!!)
そして事態を把握したホアン。でも起きたのは10時。
今から行っても折り返してすぐ帰るだけだ。そう思ったホアンは
家で(一応)勉強する事にしたらしい。
そう私に説明して、今日の勉強の成果を見せる。
日本語はLPの方に頂いたコピーの『動詞』を細かく切って覚えるように工夫していた。
そして今度は「おかさん、ちょっと、ちょっと・・・」と言って私をホアンの
部屋に連れて行こうとする。
あの汚いホアンの部屋に何しに??」と思いつつ付いて行く。

いつものホアンの部屋の様子はと言うと・・・・
脱いだ物は散乱!机の上はラジカセ、日本語のテキストブック、鉛筆が1〜2本、
ヘッドホンステレオ・・・・そんな物が折り重なって山積だ。
床には制服のズボン、シャッツ、大きなバスタオル、時々はパンツも転がっている。
あ〜ああ、よくこんな汚い部屋で生活出来る事!と、私はなるべく見ないようにしている。
時々見かねて、ホアンの部屋の床をま〜あるく掃除機をかける。

ところが、入って見るときれいになっているではないか!!
「もうちょと、もうちょとね・・・」ともう少しきれいにしたかったけど・・・という雰囲気。
それでも自慢そうなホアン。

                                         

そして、机の引出しまで開いて見せる。
ホアンが開けた引出しを見て、びっくりした。というのは3日の誕生日の日に
ホアンの弁当の端に入れた”たんじょうび おめでとう”と書いたガーベラの花
をそのまま持って帰って、引出しに入れているではないか。
「まあ!ホアンったら。それは生の花だから、もう捨てなさい・・」と心の中では
飛び上がる程うれしくて・・・びっくりして・・・思いがけないホアンのやさしい心に
触れて”なんて、気持ちのやさしい子なんだろう”と思いながら、この暑さで
どうせ枯れて茶色になってしまうしと思い、そうホアンに言った。
ホアンは「ノー!mind mind・・・」と言ってまたそーと引出しを閉めた。
たぶん、日本人であっても、ここまでする子は少ないのではないか?と思う。

昨日帰って夕方お弁当を出す時も、「おかさん、お花ありがとう!」と言っていたが
お花は無かったので、学校でお弁当を食べた後、捨てたのだろうとばかり
思っていたのに・・・・。

  

ホアンは根本的に人を和ませる何かを持っているのだろう。
会社から家に帰る道中では、学校へ行かなかった事をどう怒りをぶっつけて
やろうかと思いながら、難しい顔をして帰ったのに、心の中が怒っていても、
いつの間にか、私はホアンのペースに巻き込まれている。

主人にこの事を話すと、「おかあさんのご機嫌をとっておかんと
後々困るから、そうしたんじゃろー」って可愛くないったら無い!!
どうして人の好意を素直にとれないんだろう・・・!
7月5日(木曜日)
今日も寝坊助のホアン。
私ももう起こす事に疲れた。ホアンの気はまったくたるみっぱなし。
それでも、学校だけは行かさなければならない。
たとえ、テストであっても、ホアンのする事がなにも無くても・・・。
私たちが鬼気としてホアンの前に立ちはだかっていればいいのだが・・・
つい私たちも安きに流れてしまっている。
こんな気持ちがホアンを甘やかしている事になるのだが・・・・・。
今朝も私が出る時一緒にでよう!と安易な道を選んでしまった。
ホアンはそれを見破って、るんるんでゆっくり支度をする。
とは言ってもさすが、申し訳無さそうに私の荷物を車に積んだりしてくれる。

学校へ着いたら丁度ぎりぎりだった。沢山の安芸府の生徒が校門目掛けて
走っている。
門の所では、「早くはいれー!」と2〜3人の先生が掛け声を掛けておられる。
私も「Go Go!」といいながら、生徒達の後ろを追いかけながら門へ走りこむ。
ホアンはそんな私を見ながら、ケタケタ笑う。
車を降りると「ありがとう・・・」と教室に消えて行った。

普段でも、安芸府の生徒は門のところで、いちいちチェックされて
遅れると書類を書いて提出せねばならないらしい。
でもホアン達留学生は少し甘くみてもらい、フリーパス状態。
だから、悪く言って”なめている”部分がある。
制服についてもしかりである。
毎週制服チェックがあるらしいが、「ホアン!OK,OK!」とあまり
真剣にはチェックされない。
だいぶ慣れて来た時に起こる症状であろう。
テンションもいつまでも緩みっ放しでは感心しないので、近うち主人
雷を落とすであろう・・・。

                                 
7月7日(土曜日)昨日に続き今日も休む』[no ir a la escuel otra vez]
今日は土曜日。学校はあるのだが、行く気はないらしい。
夕べは割りと早く寝たのに・・・・。パンツのゴムみたいにホアンの精神も
たるみっぱなしなのだろう。「えい!好きな様にどうぞ!!」
今朝も早くから、コロンビアのクラスメートから電話が有った。
そのまま起きるかと思いきや、やっぱり寝てしまうホアンだ。
私はもうほっといて、田舎へ向った。主人も早々と神の倉だ。
さてさて何時に目を覚ます事やら・・・。
ホアンの事は四六時中頭から離れない。

しばらく田舎へ行っていなかったので、久しぶりに母の様子を見に行った。
丁度お昼前で、デーサービスの方が来られて母と一緒にお昼ご飯を
作っておられた。
「今、お兄さんから電話で、今晩は帰れないとの事でしたよ」と言われる。
そして「おばあちゃん、良かったねー。娘さんが帰って下さって・・・」と
母に話しかけられる。
母の痴呆も徐々にではあるが、やはり進んでいる。
私の事はまだ分かってくれている。それも時間の問題かも・・・・。
お昼過ぎに弟夫婦も帰って来た。
こうして、あいだ、あいだには誰かが顔をのぞかせるので、母は幸せだと
つくづく思う。
「泊まられないのか?」と心細げな顔をする母を残して、夕方早々に広島へ帰る。

                              

さて我が家のホアンはどうしているだろう・・・。
家に着くと待ってましたとばかり悪い顔をして出迎えに出るホアン。
私はむっとした顔でホアンをにらむ。
田舎の美味しい水をタンクに汲んで帰っているので、裏の倉庫に運んでもらう。
台所に行き、またホアンの言い訳を聞かねばならない。
「おかさん、ホアンを起こす事はもう疲れたわ!」と言う。
「おかさん、ホアンを起こすと”鬼!”って言わんばかりの目をしておかさん見てるのよ!」
と私はホアンに言った。「おかさん、嫌われてまで起こしたくない!!」
そう言うと、「ノー僕おかさん大好き!でもそれは僕が、寝ぼけているからだよ・・」
「起きた時、学校へ行く時、僕はにこにこしてるでしょう」と
ああいえばこう言うのホアンだ。
そして今度は「おかさん、僕に水をぶっ掛けて!!」と本気で言う。
「水??」と私。「そんな事出来ない!」「OK!だいじょうぶ、かけて!」
とまるで懇願の目つきである。
私はおもわず”ぶーっ!!”と吹き出して笑ってしまった。
「でもお布団が濡れるから嫌!」と言うと、こんな風に・・・と流しの方へ行き
小さなコップにほんの少しの水を入れて持って来るホアン。
僕は目を覚ますと絶対大丈夫、おかさんはドアをノックして”ホアン!”って
いうだけだから、僕はまた眠ってしまうんだ・・・とか何とかへ理屈ばっかり
並べている。
繰り返し問答していたが、そろそろ主人も帰ってくる。晩御飯の支度しましょ!
一時中断!と、服を着替えにあがり、ホアンと一緒に夕食の支度に取り掛かる。

ついに主人の雷が落ちた。
ここ最近のホアンの生活態度に関し、すこしやかましく注意する事に。
学校生活に関して、少しホアンの意見を聞く。
「最近、学校はどうなのか?面白い?退屈?」と聞くと、楽しいと言う。
最近では、ホアン得意の物理などは物理の図形を見て問題が解ける。
先生も、『ほ〜!』と感心されるらしい。
最近は少しだけど、先生の言われる日本語がところどころ分かるように
なって来たので、楽しくなって来たというホアン。
ただ、今は期末試験なので、自分が学校へ行っても、点呼もされず
早々に図書館に追いやられるらしい。
ホアンの意欲を燃やしていた空手も今は無い。
そんな事でつい気持ちがだれてしまうのだろう。

ホアンの気持ちはわかった。ただ、ホアンは今は安芸府の生徒だ。
学校には学校のルールがあるんだ。学校のルールが守れないのなら
生徒をやめればいいんだ。
『暑い思いをして学校へ行く事。その積み重ねで強い精神が培われるんだよ』と
説明しても、なかなか日本人の感性を伝える事が難しい。

AFSとしても安芸府としてもコロンビアという国の留学生を
むかえるのはホアンが初めての生徒なんだよ。

以前ある国から留学生を安芸府が受け入れて、その留学生が何か
問題を起こしたか、生活態度が悪かったのか,詳細は分からないが、
何かトラブルがあって、安芸府としてニ度と、その国から留学生は
とらないという事になったらしいよ!!。
後に続くホアンの後輩達は、もしホアンのせいで、もうコロンビアからの留学生は
受け入れない!』なんて事になったらどうするんだ??
後に続く生徒達の模範に成るように、ホアンも頑張んなさい。
と安芸府の先生から聞いた事を言ってやる主人。

深刻な顔をして聞いているホアン。

朝起きに関しては、ホアンはどうしてほしいのか?と聞く。
「おかさんに起こして欲しい!」と最初からバンザイ状態のホアンだ。
僕に水を掛けていいから、そうして起こして!と言う。
それに対して主人は・・おかあさんもホア〜ン、ホア〜ン!なんて、
甘い声を出さず、とにかく起こして、次にStand up!するまで、見届ける事。
ホアンも必ず起きて立ち上がる事!!と喧しく言う主人。
それから、また寝るんだったらもうかまうな!と言う。
頑張って起きる事が出来ていたあの10日間は一体なんだったんだろう??
やっぱりホアンは睡眠に関しては病気?かもしれない・・・。

後こまごました事を注意した主人、今日はここまで!!
「さあ、囲碁するか?」と言うと、ケセラセラのホアン、ニコニコと碁盤に向った。
7月8日(日曜日)『留学生会館へ』
来月の原爆記念日(aniversario bomba atomica)を控えて、各県に
ホームステイしている留学生が広島に集まり、8月6日の記念日の一週間前から
平和教育を受ける
ように計画されている。
そのため広島にいるホアン達が主になり、広島に結集する留学生達の世話をする予定だ。
今日はその役割分担や細かい打合せがあるので、昼から留学生会館に行くようになっている。
昼前に起き、食事を済ませ元気にホアンは出かけて行った。
留学生会館は先日,行く機会があるだろうと、場所を教えておいたので
物覚えの良いホアンは、「だいじょうぶ、わかります」と言って12時過ぎに家を出る。

半日ホアンが居ないので、掃除洗濯をして、時を過ごす。
今日は特別蒸し暑い。畑の草取りもしたいけれど、この暑さではどうにもならない。
主人は今日はどこやらの女子大生がパラグライダーの体験の為
沢山来るというので、張り切って出かけて行った。

ホアンの予定は午後1時から夕方5時までとなっていた。
多分6時頃には帰ってくるだろう・・・。
ホアンの帰る少し前に、LPの方から概略の報告を頂いた。
結構ホアンのする事が沢山あるみたいだ。
でもこうして又とない機会に沢山の経験が出来る事は幸せな事だと思う。

電話を切ってすぐにホアンも帰って来た。すぐにホアンの報告を聞く。
「僕はBoss! 広島駅でチェックだ」と自分の役割を説明してくれる。
8月3日に広島駅に到着する留学生の名前をリストでチェックをするのが
ホアンの最初の役目。
そして国際センターに誘導して、平和教育を受けるのである。
実際に8月6日の平和式典にも、朝早くから参列する予定になっている。

半日出かけていたホアンは6時過ぎ帰って来たが、すっかり疲れてしまった様だ。
しばらく、居間で横になって休んでいた。
「お腹が空いた」と言うので、おむすびを1個作って食べさせる。

今月19日は終業式でいよいよ夏休みだ!
来週あと2日間テストだが、ホアン頑張って学校行こうね・・・。
なだめすかして、学校へ行かせる事である。
7月9日(月曜日)
水をぶっかけて起こして!と言っていたホアン、さてさてどうして起こしたものか・・・・。
”水をぶっかける”なんて言うのはどうも私の性に合わない。
何となくされる方も嫌だろうし、するほうも余り気持ちの好いものではない。
そうだ!冷たい氷を顔にくっつければ、冷たさに目が覚めるかもしれない!
そう思い、氷を持ってあがり、ホアンの顔に額にと置く。これは結構効いた。
目をしっかり見開いたホアンを見て、私は下に降りる。
程なく下に降りて来た。主人を見て「おはよございまーす」とニタニタっとする。

そんなホアンを見て「今晩、もう一回文句言わんといけん!!」と主人。
あれじゃー全く自分の起きる意志はないじゃーないか!
お母さんはあくまでも手助けなんだから、初めからおんぶに抱っこ状態はいかん!!
私もそう思う。そうだ!そうだ!!。

                                          

今日も学校では期末試験。テストの無いホアンは今日ジョー君と
散歩した・・・と言っていた。

昨日ホアンにもう一度注意すると言っていた主人。
夕食の後、上にあがって行くホアンに「ホアンも何時に起きるかちゃんと
ベルを掛けて、それでも起きられないときのお母さんは手助けなんだかね!」と
注意する。多分ホアンも理解したと思う。

明日は6時50分に目覚ましをかけると言っていた。
どうせ起きる気はないだろうが・・・・。
7月10日(火曜日)『お父さんと救急車で病院へ!』
6時50分けたたましくベルがなっている。
ラジオを下で聞きながら、起きて来るかな?未だかな?と様子を伺う。
7時になった!ヤッパリ起きて来ない。
ドアーをコンコンとノックすると、はっきりした声で「ハーイ」と言っている。
”ああー、目覚ましで一応目が覚めたんだ”と思う私。これなら水ぶっかけなくても
いいな・・・と思いベランダで洗濯物を乾す。
乾している間に、彼はそーと下に降りて行ったようだ。私は気付かなかった。

今日で試験も終わる。みなさんリラックスして試験後わいわい、ホアン達も加わって、
今日は歌でも歌うのではないかな??

昨日アメリカの友達アムジャ(Amyad)からメールをもらったので
夕方、ホアンにプリントして持って帰った。
誕生日の時も電話がなかったので、ホアンはとても心配していたが
メールをもらったので、とても喜んでいた。
日曜日に私と長々話をして、テレホンカードが無くなってしまったのだそうだ。
「ゴメンねホアン」というと「ノーノーだいじょうぶ」と笑ってくれる。
「Amyadの電話番号わかったので、電話してくると」と言って
昨日は夕方彼に電話をしにでかけて行ったホアンだったが、ゆっくり話が
出来てうれしそうに帰ってきた。

今朝、会社に来るとAmyadから、『ホアンから電話をもらって、ほんとにうれしかった』と
お礼のメールが入っていた。
彼はワシントンで英語の学校へ通っているが、日本人の友達がいて
夏休暇で日本に帰ったその友人から、お土産に日本の美味しいクッキーだと言って
お菓子をもらったと書いてあった。
その名前は”せんべい”と言いますと書かれてあった。
なるほど、せんべいも色々種類はあるが、パリパリと歯ごたえもいいし
香ばしいので、ホアンの事を考えながら、おいしく食べたに違いない。
ホアンに帰ってそのことを伝えると、”せんべい?”と首をかしげていた。
ホアンにもせんべい買って帰ってやろう!!

今週息子は夜勤の週。一週間毎に日勤・夜勤が変わるが、さすが夜勤はしんどそうだ。
7時過ぎには夕ご飯を食べて、出かけて行く。
ホアンは私相手に囲碁をしたがるので、息子の支度もあるし、
「ホアン、ちょと、ちょっと待ってね」と碁盤を出して支度するホアンに待ってもらう。
下手な私相手でも、とにかく囲碁、五目並べをしたいのだ。
と言っても主人相手では、まだなかなか勝てないので、面白くないのだろう。
ホアン相手に囲碁をしていると、主人が帰って来た。バトンタッチだ。
一足先に夕飯を終えて、出かける息子を見送り、私は台所で夕飯の支度をする。

                                     

今日はてっとり早くお肉を焼いて、スープを付けた。
主人とホアンはお皿のお肉を食べ始めたが、私はお茶を入れたり、
小皿を出したりしてやっと席に付いて食べようとしたその時だった。
突然主人が”がぁ〜!!”と口をふさいで、裏の勝手口の土間に走りこんだ
そして、ゲーゲーと嘔吐する。
何事が起こったんだ〜!!??どうしたん??何??
全く事態が把握出来ない私。主人は前つのめりに依然がーがー!!げーげー!!
やっている。その内、息もきれぎれに、あえぐようにひーひーと息をしている。
そして、絞り出すような声で、『救急車呼んでくれ!!』と言う。
依然として事態の把握が出来ない私は、玄関の電話に走りかけたものの
ひょっとして、ものの5分後にはケロッとして「なんでもないよ!」な〜んて
言われたんじゃーたまったものではない!ともう一度「ほんとに呼ぶの?」
聞き返しに行く。主人『早く呼んでくれー!!』

そうか!どうも緊急事態の様だ!玄関に走り電話を廻す。
「はい 119番です。火事ですか?救急ですか?」と言われた・・・・様に思う。

そして、手早く聞かれる事に答えて電話を切る。待つ事10分。
ピーポーピーポーとけたたましく夜の団地の中を救急車が走って来る。
「ホアン!道路のところに行って、誘導して!」とホアンに頼む。
よくわからなかったのだろう・・・立ってどうしようと戸惑っている。
私も一緒にホアンの手を引っ張って、救急車に手を振る。
そうこうしていると、何事かとたちまち周りは、近所の人であふれている。
救急車が我が家の庭に入ると、どっと近所の人も我が家に向って来られ
「どうされたんです?何があったんです?」と口々に心配そうな顔で
たちつくしておられる。

主人は依然として最初に走りこんだ裏の勝手口のところで、前つのめりの状態で
あえいでいる。
消防の方が「ご主人ですか?どこですか?どんな状態ですか?」
矢継ぎ早に聞かれ、主人の所へ急いで様子を見に行かれる。
夕食を食べ始めてすぐ何か吐いたんです。と何を説明してよいかわからず
お肉を食べ初めてからの事を一応説明する。

話しながら、もしかしてお肉が喉に詰まったのかもしれない・・・・とやっと気が付く私。
救急隊員の方は、私の話と主人の様子から、喉に肉を詰まらせた結果、異常な事態で
あると察せられて、そろり、そろりと主人を玄関に置かれたストレッチャーのところまで
連れて行かれた。
私とホアンは一緒に救急車に乗って行って下さい・・言われるので、急ぎ身支度をする。
車に乗り込むと、「ご主人が横になられたら、喉をふさぎますので、すわったままで
搬送しますが、車が揺れるので、倒れないよう肩を持っていてあげて下さい」と
救急隊員の方が指示される。
救急車は夜の町を走りながら、夜中の為、救急患者の受け入れ可能の病院の手配を
して下さっている。
結局、主人が搬送されるべき耳鼻咽喉科は当番医が居ない為、
結局『広大医学部』へ搬送しますから・・・と言われる。

                                        

15分後、ピーポーピーポーとけたたましくサイレンならしながら救急車は広大医学部玄関に着く。

思うに、私はこのようにして、救急車で病院に付き添うのは、これで3回目である。
幸い自分自身の事は一度も無かったが、主人の母が一度目。二度目は、これまた人騒がせな
この夫である。前回も変な事であった。
なにやら、山芋を食べて、主人の身体中に発疹が出来た為、その発疹を抑える薬を行きつけの
病院でもらった。その薬を飲んだ後に、体が硬直して、震え出し、息が荒くなりだし、
『救急車だ!』と言う主人の指示で近くの個人病院に運ばれた。
その時も、こんな夕食後の8時から9時あたりの時間であった。
そして、2時間後にはケロッとして、帰宅したのである。
どうしてこういつも、可笑しげな運ばれ方をするのか、つい笑ってしまう!

さてこうして広大に運ばれ、とりあえず喉に詰まらせたと思われる肉がどれほどの大きさで
どのあたりに詰まっているのか・・・等の検査が行われる。
検査の結果は逐一、手術着姿の先生から詳しく報告がある。
説明によると、今は肉の塊が気管の入り口にあり、そのまま気管の中に落ちてしまうと、
大変危険な状態にある事、今から器具で鼻や口からつまみだすような処置をしますが、
運悪く、肉片がちぎれて残りが気管の中に落ちたりすると、最悪、喉を切開することも
有りうる・・・等と説明される。
いくら説明されても、私達は「はぁ〜・・・・宜しくお願いいたします・・」と先生に
全てをゆだねる以外なにも出来ない・・・。

結局、鼻からも取り出せない。口からの処置も、主人が息が出来ず、苦しさのあまり
手ではねのけてしまって、とても器具をつっこめる状態でないので、最後の手段、
全身麻酔をして意識不明の状態の時に、口から無理矢理器具を突っ込んで
引っ張り出すと言う手段に移行される。

処置の仕方が変る度に、私とホアンは「2階で待っていて下さい」「3階の待合室で
待っていて下さい」という看護婦さんの指示に従い、その都度一緒に移動する。
最後の麻酔での処置で、無事主人の喉から、肉片が取り出され
処置にあたって頂いた先生から、その実物を持って来られ『これだけ大きな物が
詰まっていたんですから、苦しいはずです。これ要りますか?』とご丁寧に聞かれる。
『とんでもありません!どうぞ捨てて下さい!』と激しく手を横に振る私。
『喉に器具があたったりして、傷つけていますので、今晩はここに一泊して頂き
明日お帰り頂きます』との事。

一件落着で私とホアンはタクシーで家路に。
家にもどったのは、11時半ころであった。
帰ると、食卓は夕食の時のままの状態で、問題の肉達が
私、ホアン、主人のそれぞれのお皿にほとんど箸をつけない状態で残されている。
可笑しい事に、ホアンは”あなたのせいです!”と帰るなりそのお皿の肉を指差して
怒っていた。

ホアンは明日は朝練だ!
もう晩御飯時間が遅いのでいいですと言って2階に上がって行った。

ホアンが一緒に行ってくれたお陰で私は心細さも半減した。
ホアンは先生の説明される事を完璧に理解していた。
「ホアン、良くわかるわね!」と感心すると、「僕は良く本を読むから・・・」と言う。
聞けば、ホアンは殆んどテレビを見ないそうだ。
自分の部屋に置かれた大きなテレビは、一年間殆んど見なかったので、お父様が
取り上げられたそうである。
医学書、宗教に関する本と多岐に渡る。小説などは一夜で読んでしまうらしい。
何でも幅広くよく知っているホアンに再び驚かされた。
「おとさん、救急車呼んで!と言った時、おかさん”ほんと??”って一瞬躊躇
したので,心の中で”おかさん、早く、早く!!おとさん危険です”」って
ホアンはそんな事を思ったそうである。私はちょっと恥ずかしかった。
夜勤で朝帰った次男に一部始終を話すと、息子からも、「その一瞬の躊躇で
おとうちゃん、死んどったらどうするん??」と責められてしまった。

        

こうして笑っていられるから良かったものの,しばらくお肉は主人につけないでおこう!