ホアンと稲垣夫婦のホームステイ日記

                                                   愛子 記

4月1日(日曜日)
夕べも遅かったので、眠いだろうなー・・・と思いつつ、ホアンを起しに上がる。
「ホアンぺ、起きなさい」と2、3度言って下に降りる。
神の倉が10時だから、今8時半、まあもう少し寝せてやろう!
時計を何度か見ながら、ぎりぎりまで寝せる。
主人「もう起こしたほうがいいぞー!」。意を決して起しにかかる私!
「ホアンぺ!起きてー!!」蒲団の上から足を揺する。
”うーん”とやっと目が覚めた様子。ホアン起きてちょうだい!ご飯にしましょ!。
いったん起きると、行動は早い。食卓に付き、”いただきまーす”

『9時15分には出るぞ』と主人。状況判断の早いホアンは腕時計を見て
いつもよりすばやく朝食を済ませ、「ごちそうさまでした。ありがとござまーす」と言って
流しにお茶碗とお箸を持って行き、支度をする為、2階へと上がって行った。
出かける寸前のホアンにカメラは?と聞くと、”あ!そうだ!”と先日買ったばかりのカメラ
嬉しそうに首に掛け降りて来た。仲良く出かけて行く二人を見送る。
退屈でなければいいけど・・・・と少し不安の私。



私のお稽古は3時過ぎに終わった。皆さんお茶でも飲みましょう!との誘いを振り切って、
すでに支度して車に載せておいたので、そのまま神の倉目指す。
ぶっ飛ばして神の倉に着くと、丁度山本さんが、テイクオフに上がられるところだった。
「上がられますかー?」と声を掛けて頂いたので、「お願いしまーす」と一緒させてもらう。
「これからホアン君のタンデムしようと、思います」と言われる。
”あ〜ぁ、間に合ってよかった!”
テイクオフに着くと、ホアンが私ににこにこと手を振ってくれる。
”ホア−ン”と駆け寄る。「お父さんは?」と聞くと「あそこ!」と、はるか上空を指差している。
もう2時間以上飛んでるよ!とホアン。
”もう!ホアンをほったらかしにして、いい気になって飛んでる!”とムカっ!!
少し風が落ちて来たので、山本さんタンデムの準備されている。
ホアンの方も、黒田さん初め、みなさん寄ってたかって、ベルトを締めて下さったり
ハーネスのチェックをして下さっている。みなさん有難うございます!
高校生のホアンだが、しばらくテコンドーや忍術の稽古は休んでいるので、少々太り気味。
ハーネスベルトがきついようだ。みんなして、キュッキュッと占める。
準備も完了。さあ!テイクオフだ!!
一発でキャノピーライズアップ。風に少し持ち上げられホアンの足が宙にフワーと舞い上がる。
「走れ!はしれ!」と、皆さんから言われていたので、ホアン一生懸命走ろうとしている様子。
風がほどほど有るので殆ど走る事なく浮かんだ!
無事テイクオフして行った。”わおー!”ホアンおめでとう!良かったね!!
私は一瞬たりとも、見逃すまいと、ビデオをまわす。
あれー!トップアウトしている。見上げると、テイクオフ前に来たホアンは手を振っている。
私も手を振ってホアンー!と叫ぶ。
幸福にも20分もフライトさせてもらい、無事ランディング場へと降りて行った。
ホアンのうれしい第一声を聞くため、急いでランディング場へ引き返す。
下に降りると、満面の笑顔を浮かべた、ホアンがそこにいる。
ホアーン!と彼に向って走って行くと、にこにことしてこちらに向かって来る。
「怖くなかった?」「どうだった?」と矢継ぎ早に聞く私。「楽しかったよー!」と彼。
このビデオ国のお母さんに贈ってあげるから、感想を一言!とビデオカメラを向ける。
にこにこしながら、スペイン語で喜びを語っていた。
帰りはホアンの喜びを聞きながら、神の倉を後にする。

   パラの総会   神の倉テイクオフで昼ごはん

   黒田さんと久しぶりのスペイン語で・・・   なかなか嵌らないね〜

   もう少しだ〜   ようやくヘルメットだ

   山本さんとタンデムフライトのホアン   タンデムフライトを終えて、本日最高の笑顔

今日も夕食の準備を楽しみにしているホアン。今日はお好み焼きを焼かせてやろう!
ホアンはいつもの様に、散歩に出かけて行った。
早速材料の準備をする。帰ったら楽しいお好み焼きを一緒にしようね。
「ただいま、かえりましたー」ホアンが帰って来た。
うでまくりして降りてくる。
「今日作るのは『OKONOMIYAKI』よ」と言う。「おこのみやきー?」とホアン。
広島は有名なのよ、と教える。
材料はそれぞれ彼が切る。豚肉、キャベツ、もやしと材料が揃った。
粉は手っ取り早く『お好み焼き粉』を使う。
みようみまねで覚えた作り方は、定かでは無いが、なんとか一個作って見せる。
次はホアンの番だ。私が作ったのを良く覚えていて、上手に作っていく。
出来上がったお好み焼きはお皿に入りきらない大きさだ。
これを僕が食べるの?これを?げー!僕おすもうさんだー!!と言って格好をして、私を笑わせる。
じゃーあ半分にしましょ。とお皿に分け分けにする。
お好み焼き用の金のヘラを使い、上手に作ってくれた。
「おとさん!ごはん」と主人を呼ぶ。3人で美味しく頂いた。

   コロンビアでは料理した事無いけど楽しいね!!   広島風お好み焼き。ぜ〜んぶ一人で作りました

今日は主人のパラ大先輩であるMさんが、神の倉でホアンの事をお聞きになり、是非とも娘と
話をさせて下さいと言われて、夜、お嬢様と共に我が家を訪問された。
聞けばお嬢さんも、交換留学生として一年間フィンランドに行かれていたらしい。
流暢な英語でホアンと話がはずんでいる。
「2階で音楽を聞かせてもらいます」と二人はお父様を残し2階へ。
下は下で、主人とMさんはパラの話、コンピューターの話に花が咲いている。
「夜も更けて来ましたので・・・・」と2階のお嬢さんに声を掛けられる。
「また、いらっしゃい」と彼女に伝え、お見送りする。
お風呂から出たホアンと今日のタンデムの話に花が咲き、またまた今日も午前様!
時計は一時半をさしている。

4月2日(月曜日)[柔道・忍術の話に花が咲く!]
夕べも遅くまでパラの話で盛り上がり、興奮もしていたようで
寝たのは1時半過ぎ。学校が始まれば、いやでも6時過ぎには起きなければならない。
どうも朝に弱そうなホアンなので、”まあ、一日位起こさずにおいてやろう・・・”と思って、
黙って仕事に出る。ほっとけば、まる一日でも寝そうな子である。
お昼の支度だけは、しておくが、食べたり、食べなかったり、いろいろだ。
日本ではご飯が主食で、その他おかず類だけど、彼の場合(というか、国では・・)先に肉あり!
で、本当にお肉は良く食べる。
朝からぎらぎらぎっとんの肉でもOK。料理する私もなんだか気持ち悪くなる・・・。
おかげで50Kgの私の体重は現−3Kgになり、ホアンの来る前、減量に苦しんだこの身は
ホアンのお陰でたった10日でほほ(こけ落ち)すっきり(?)した。

5時過ぎた。ホアンが気になって急いで家に帰る。
帰ってみると、借りて来たビデオを見ながら、日本語の勉強をしていた。
一日一人だったので淋しかったろうと思い、服も着替えず座り込んで話をする。
ホアンも喜んでビデオを見ながら、教えてくれる。
「これ見る?」とひとつのビデオを差し出して見せた。「何?」と言うと
こちらに来る時、彼のクラスメート達が淋しくなったら見てくれ!・・・・(と言ったかどうかは
わからないが)来日寸前にプレゼントしてくれたテープらしい。
お別れパーティの時の様子や、彼へのいろいろなメーッセージが入っているようだ。
ビデオが始まると、「この子は僕の一番の友達!この子は僕のガールフレンド!」等と解説してくれる。
そう言えば、我が家へ来て最初の頃、ビデオカセットの使用許可を願い出たので
「勿論良いわよ!いつでも好きな時に使いなさい」と言うと・・・・
「持って来たビデオ、一回だけ見て、もう納めてしまうんだ。これを見ているときっと友達や、
家が恋しくなるとおもうから・・・・」と言っていた。
そう言った彼だったが、今日はこれを何回も見てるんだ・・・というので
「あれー!ホアンはこんな事言ってたんじゃー無かったっけ??」と言ってやると
””じ〜ん””とくる事を言ってくれた。
この家に来る前は、すっごくナーバスになり、『どんな家庭だろう?とかうまくやっていけるだろうか?』
等とすごくプレッシャーがあった。でも今はとってもリラックスしているし、そんな気持ちは薄らいでいる。
だから友達を恋しいとは思わないでいい状態なので、何回でも見れるんだ・・・・と言った。
彼のその言葉に私はとってもうれしくなって、「私は2人の子供を持ったの。
あの頃も幸せだったけど、今はこうしてホアンが家へ来てくれて、もっと幸せよ!
Juan is my son!」 と言うと、とろけるような顔をして「Thank you!!」 と言いながら私の目を見つめてくれた。
彼が我が家に来て、一番うれしい出来事だった。

  

彼と話をしていると、延々話が尽きない。そろそろ夕ご飯の支度しなきゃー!。
彼を散歩に行かせて、冷蔵庫に頭を突っ込みながら今夜のメニューを考える。
今日は野菜のてんぷらにしよう!
帰って来た彼に早速指示し、材料の下準備をする。
さあ、これ揚げてちょうだい!
お箸が上手に使えるホアンはテンプラの衣も滑りやすいのに、上手に油の中に
落とし入れている。ひょっとしたら、私よりお箸の使い方は旨いかも??
さあ、揚った!大根摺りも作ってね。そして”てんつゆ”!
次々と上手に作ってくれる。
お父さんも帰られた!じゃー”いただきまーす!”
「これ、全部ホアンが作ったんだよねー!」と言うと、そこは夫婦、私の意図を
すぐさま理解してくれ、「ほ〜う!!」と大げさな表情でホアンを見る。
すこしはにかんだように、うれしそうににこにこ・・・とするホアン。
笑い顔のとっても素敵な彼。そんな彼の顔を見たくて、つい私もホアンをおだててしまう。
食事が終わると、話は柔道、忍術の話になってきた。
二人とも何だか意志が通じているように、身振り手振りが激しくなったきた。
椅子から立ち上がると、ホアンはピヤー!!と足を上げて前蹴り!後ろ蹴り!と
格好をしてみせる。
彼のやっている”忍術”と言うのはどうやら、空手・合気道・ヌンチャク・こんぼうなどの
格闘技らしい。
忍術一年、テコンドー5年という鍛えた彼の身体は、柔らかく、かっこいい彼の長〜い足は、
天井にも届きそうだ。足を広げると、お腹も床にベチョーと付く。
負けずと私もやってみせると、コンパスの長さは雲泥の差で恥ずかしいが
ベターと床に付くので、それを見て"Wao! very soft!”とびっくりしてくれた。
そんな彼を見ていると、安芸府中高校で空手クラブに入るんだ!と意気込んでいるが
きっとこれじゃー物足りんぞー!と主人。
安芸府中高校は全国選手権大会6年連続出場、空手クラブの成績は上位クラスで
有名だそうだ。後から聞いた話では、それは女の子?が・・・だそうだが。
日本に来る前、日本がそういう武道等に関しては世界一だと、聞いて来ており
ホアンの期待があまりに大きすぎて、興ざめしても、可愛そうだなーと主人は心配している。

そんな話をして、ふっと時計をみると、すでに10時過ぎ。
二人がお風呂に入り、日本語教室を終えたのは、またまた1:30過ぎだった。
4月3日(火曜日)[日本の格闘技を見た!]
今朝は出かける時に声をかけると、いつもの様に蒲団の中から「行てらっしゃーい」
言ってくれる。
夕べあんな話をした主人、電話帖をめくって格闘技の道場をさがしている。
一回どんな事をやっているか連れてって、見せてやろうと、言っている。
夕方待ち合わせをして、私はホアンを連れに帰る。
話を聞いたホアンはニコニコ顔。
主人と待ち合わせをして、さっそく駅近くの道場を訪ねてみる。
一ヶ所は極真流空手道場で、見学を快く承諾してもらい、椅子まで出して頂いて見させて頂いた。
私の隣に座ったホアンの膝は、やっている人の動きに合わせてくっくっと力が入っている。
没頭しているようだ。
最初見た道場では、基本の型を一人の先生が、もう一人の先輩らしき人が
実際にスポンジ等を持って構えたところに前蹴り、後蹴りと足で打ち込むような
練習しておられた。
基本の型の練習の方は、わからない私が見ても、足・腰が微動だにせず、きれいだな〜!と
思った。学生時代、主人は柔道をしていた。私を挟んで二人とも、まさに真剣な目つきで
食い入るように見ている。
伺う前に、主人が「夕方遅いので、一道場、30分だぞ・・・」とホアンに伝えておけ・・・と
言っていたが、なんて事ない。自分の方が吸い込まれて見ていたようだった。
きりが無いので、丁度いいところで失礼しようと、先生に声を掛け、最初の道場を失礼する。
もう一ヶ所は”K−1”道場だった。テレビでは佐竹なんとかと言う人がやっているそうだ。
これは実際に相手に蹴りを入れている。(勿論加減しているみたいだけど・・・・)
こちらのほうが迫力はある。なんだか私には男臭いばかりであるが・・・。
両方を1時間半ばかり掛けて見た。



時計を見れば既に9時半を廻っている。「夕ご飯、どこかで食べて帰るかー・・・」と主人。
この時間では、一杯飲み屋さんは沢山開いているが、『お食事どころ』はもう閉まっている。
駅ビルに行けば、まだやってるでしょう・・・と私。
ホアンはお肉が食べたいだろうから・・・とお肉の有るお店に入る。
ホアンはカツカレー・主人は和定食・私はグラタンとそれぞれまちまちだ!
ホアンのが一番先に来た。「先に食べなさい」と言うと、カレーご飯の上のカツだけは
さっさとたいらげて、カレーもぐれのご飯だけが残り”もう一杯”ごちそうさま〜!!という。
次に主人の和定食が来る。主人の性格が良く出てものの3分でたいらげる。
10分待っても私のオーダーしたものは来ない。
いいや!ホアンの食べちゃえ!!ホアンにこにこしてみている。
たいらげて、丁度いいお腹になった頃に”お待たせしましたー”と言ってグラタンが到着。
3人が手伝ってくれて食べるも、みんな2〜3口で”もう結構””
半分も残ってしまった。
ホアンが食べている時、お店がゆさゆさーと揺れた。”あ!じちん!”とホアン。
またまた目を白黒させている。上を見やると吊り下げた大きな電燈の傘がゆ〜ら、ゆ〜ら揺れている。
しばらくじっとしていると、今日はそのまま納まって、やれやれ・・・・。
帰りがけに通った駅ビルのエスカレーター”地震点検中!”と張り紙がしてあり、ストップして
係りの人が点検作業をしておられた。
さあ、早く帰ろう!!K−1や格闘技を見たホアンは上機嫌だった。
帰りの車の中で、「ホアンどちらが気に入った?」と聞くと、「勿論K−1だ」と答えた。
習っている忍術では実際にヒットするらしい。
柔道をやっていた主人は、空手の基本の型を教えていた道場に魅せられたようだ。
この美しさはホアンにはやっぱりわからんだろうなー・・・・と。
4月4日(水曜日)[ホアン指を切る]
今朝もいい子で寝ている。もう少しで学校も始まるから、早起きの癖をつけなきゃと
思うが、つい甘やかしてしまっている。ホアンの為にならない!と分かっているが・・・・
今日は主人は”謡”私はリズム体操の稽古が夕方あるので、早めに帰って夕食の支度。
帰るとホアンが居ない。いつもの様に散歩にでも出かけたのだろう。
服を着替えて夕食の準備をしていると、「ただいまー!」と帰って来る。
「散歩?」と聞くと「ハイ」と答える。

 

「クッキング?」と聞くので、「イエス」と答える。
そろそろ料理の手伝いも飽きてくる頃か?と思うのだけど、いそいそと手伝いに
降りて来てくれる。
「じゃー今夜はお肉のごぼう巻き」しようか・・・と材料を揃える。
ホアンは材料を切るのが、気に入ったようで、まな板の上でトントントンと
”早く早く”と言わんばかりに、包丁を持って切る真似をしている。
「じゃーこれをこうしてねー・・・」とごぼうの皮をこそげ取り、4っつに割ってもらう。
日本では、だいたいごぼうの皮は包丁の背中でこそげ取るのが相場だが、
皮むきの道具がめずらしいのか、これでやったら早い!と言いながら、皮むき機でやっている。
それもそうだよね・・きれいに皮がむけるし、早い。
少々どうって事無いや。むけさえすればいいんだから・・・。
さて次はこうして半分にして、それを又半分よ!と一個だけやって見せる。
2〜3個切った時だった。”あっ!!”とホアンの声。
ええー??どうしたぁ〜?
包丁をまな板の上に置き、指を抑えている。
見れば血がにじみでている。ああっ!やっちゃったー!
ごぼうは切るのにちょっとコツが要る。ころころところがりやすいので
つい包丁が動いてしまったのだろう。
私はすぐホアンの親指をしっかりと握り、高くかざす。
(本当はたいした事なかったんだけど・・・・こんな経験は初めてだろうし)
私も大げさに、ここ押えてなさい!と言って、ティッシュを持って走り、傷口をすぐ抑える。
赤チンと消毒粉を付けて、白い包帯でしっかりと結ぶ。まるで赤ちゃんみたいなものだ!
めげるかと思えば、そこは男の子!次も切る!と再度挑戦している。
切ったごぼうに味を付ける。ちょっと味見ね。”おいしいー”と彼。
次はごぼうを芯に、(例のホアンも驚く)かざせば先が見えるほどの薄い牛肉に、巻いていく。
下準備は出来た。後は帰ってからまた焼くのを手伝ってね」と伝えお稽古に出かける。
もう指を切った事など、忘れている様子。

 

お稽古を終え帰ってみると、主人も既に帰っている。
お皿に盛り付けをさせる。きゅうりの飾りきりを教えたので、プチトマトと一緒に
彩りよく盛り付ける。日本の料理は見た目も大切よ・・・と教えたがわかったかどうか・・・??
「いただきまーす」と食べ始めると、「おとさん これ!」と包帯傷をかかげて、名誉の負傷を見せる
主人”えー??切ったのかぁ〜??」とぎょっと驚くしぐさ。
そしてホアンがまた面白い、今日は親指ね。あしたは人差し指、そして次はこの指!
と食卓の上に手のひらを広げ、1本づつ折って消していく。
(暴力団の何とかが頭をよぎり)私達はひゃあ ひゃあと笑ってしまった。
そして・・・最後にぼくは両手なしで帰るんだー。とどめをさす。
私は涙をながして笑い転げてしまった。ほんとに面白いホアンである。
こんなところにも、お国柄が出ているのだろうか。すべてを楽しんでいる様に私には思える。
お風呂からあがったら、包帯替えましょうね。と私。
「ありがとござまーす」とお風呂へ入った。

4月5日(木曜日)[安芸府中高校へ!]
今日は制服を頂きに学校へ行く予定。
朝出かける時、「ホアン、自転車置き場 12時半ね。忘れないで!」と伝える。
ベッドの中から、OKと言って手を振ってくれる。・・・・が本当に起きてくれるのかなぁ〜?
一抹の不安に駆られる。
予定の時間、約束の場所に行ってみる。え!まだ来ていない。
明日から学校なので、今日初めて、お借りした自転車置き場に自転車を置いておく。
彼を紹介しておかねばならない。学校が1時なので、少し忙しい。
近くのストアーに車を置いて、ホアンを捜す。
なんて事ない。当の昔に来ていて、自転車置き場の反対側でちゃんと待っている。
「ホアン!」と呼びかける。にこにこっと彼。
下温品のバス停付近には、家庭の軒先を自転車置き場として、安く提供されている。
市内の学校や、職場に通う人達が沢山利用しているようだ。
ホアンに貸して頂くKさんの家の軒先にも、20台ばかり、自転車が並んでいる。
「自己紹介しなさい」と言うと、「わたしはホアンです。コロンビアからきました」
「どうぞよろしくおねがいします」とすでに空で覚えた文句をすらすらと言う。
Kさんも外国人は初めてのようで、少々緊張気味に「ああーそうですか。よろしくね」と
言っておられる。ご挨拶も済んだ。さあ高校へ急ごう!
安芸府中高校へ12時40分頃着く。少し早いので、ホアンが道場見たいと言うので
じゃー行って見ようかー・・・と体育館の方へ歩いて見る。
丁度空手部の部員の人達5〜6名がいる。素直そうな少年だ。
女の子も一人いた。ホアンを紹介する。
皆さんも紹介して下さらない?と言うと、一人づつ丁寧に名前を言ってくれる。
「こんど国際科に来た留学生です。空手クラブに入ると思いますので宜しくね」と
みんなに伝えると”オッス”と言ってもらいホアン喜ぶ。
お稽古?と聞くと、今済んだところです。ホアンがっかり・・・。



1時になるので、職員室の方へ帰る。LPのNさんも来て下さる。
新任の校長先生と教頭先生にご挨拶する。
校長先生は柔道をやっておられ、教頭先生は剣道の権威者だそうである。
校長先生は「私もこの学校の一年生です。ホアン君と一緒です。
友達をつくって、時々はこの校長室に遊びに来て下さい」と言って下さった。
同じく教頭先生もとっても優しそうな方とお見受けした。
ホアンはほんとに幸せな星のもとに、生まれて来た子だと思う。
この前来た時に、制服の丁度良いのがなかったので、捜しておいて下さり
今日も山のような制服の中から丁度よいのをえらぶ。
とっかえひっかえはいたり着たりする。上着の丁度良いのが見つかった。
次ぎはズボンだ。なかなか丁度良いのが無い。
見るからに小っちゃそう。これはどうかな?と履いてみる。なんとお相撲さんだ!
ホアン履いておどけて見せる。そのひょうきんなしぐさにLPのNさんと私は笑い転げる
「おかさんは、僕に、こ〜んなお好み焼きをくわせるんだ」
このズボンなら、あのお好み焼きも2個3個食べてもいいなー」とだぼだぼのウエストの
ズボンをかかえて、私達を笑わせる。
結局ズボンは少し汚れていたが、1本だけ丁度良いのがあり、それを頂く事に。
青いネクタイとカッターシャツを一枚づつ。これで全て揃った。
しばらくして、国際科担当の一組と2組の先生も見える。ホアンのクラスは2組で上西先生
ハンサムで優しそうな先生だ。これからの事を少しお話頂いて、3時頃学校を後にする。

    

自転車置き場まで彼を送って、私は会社に戻ろうと思っていたが
ホアンが「ダンベル、どこかで売ってない?」と聞くので、途中の日曜大工センターに寄る。
家で私が使っていたダンベルを見て、「私使わないから、自由に使っていいわよ」と言ったものの
そんな生やさしいものではないらしい。
まさに重量挙げ選手が使うような大きなバーベルだ!
ホアンは15Kgのバーベルを2セット買った。二つで1万円近くする。
いかに言っても、持って帰るのはしんどいだろうと、そのまま私の車に乗せて、夕方私が
持って帰る事にする。ホアンを降ろし仕事に戻る。
夕方家に帰ると、「おかえりなさーい」と出てくる。
ホアン、バーベル!と言うと、そうだ!という顔をして、車に取りに行く。
私は1個でも両手で持てない。夜、お父さんに見せてあげようね」と言うと、にこっとうなづく。
さあ!明日から学校だ。制服を一通り着てみなさいと出してみる。
カッターシャツは新しいのを買った。ズボンを履き、真っ白なカッターシャツを着る。
ホアン「ネクタイ結び方わからない」・・・主人「えー?結んだ事ないのかー?」と。
こうして・・・こうして・・・と教えている。
ホアンの背中越しに教えてやろうにも、背丈は逆に大人と子供だ!
ちょっとしっけいして・・・と机に上がりホアンの後ろから手をそえて教える。
頭の回転の良いホアンはすぐ覚える。
「いままで、パーティとかあったでしょうに、どうしてたの?」と聞くと
父親に結んでもらったり、既に結んであるのを頭からスッポリかぶり、キュっと
絞めて出来あがり。これまた笑ってしまった。

ビシッと決まったところで、記念撮影!!ホアンは何を着ても良く似合う!!。
これで明日はバッチリだ!。
4月6日(金曜日)[安芸府中高校始業式!]
さて今日からホアンの学校が始まった。
夕べ「ナーバスだ!ナーバスだ!」と言って遅くにまた散歩に出かけていたホアン
よく眠れたのだろうか・・・?。
夕べ、少し不安顔のホアンに主人は、「男だ!オッスと下腹に力を入れるんだ!」
と両手こぶしをにぎり、身体の両横でふんばる様な、空手でよくする”かまえ”の格好をして見せて
彼を勇気付けてやっていた。
忍術でも似たような格好をするのか、主人の言わんとする事を理解して、”オッス”と大きな声を出して
気合を入れていた。いいぞ!その調子!!

朝,彼の部屋をのぞくと、半分夢の中・・・半分ぼー・・・の状態。
「ホアン?」と言うと「ハイ?」と言う。そろそろ起きないとね・・・と言っておいて、私は下に降りる。
朝ご飯は味噌汁とご飯で軽く食べる。なんだか震えながら食べている。
緊張からだろうか?それとも寝不足?
聞くと寝ついたのは2時だったそうだ。
「8:15分には来ておいて下さい」と先生から言われていたので、余裕を取って6:30には
出かけて行った。
夕べの予行演習の如く制服をビシッときめて張り切って出かけて行った。
どんな一日になるだろう!!

  学校へいってきま〜す   何故そうなるかって?日本語の文法忘れたよ!

彼は結構神経質(少し気が小さい?)かもしれない。
広島に来て2週間くらいだが、余り高歩きしない。
市内へ出るバスの乗り方も教えたけれど、出た様子も無い。
せいぜい5Km範囲くらいを散歩、散歩の毎日で、日に5〜6回は散歩と行って出かける。
そして20分位で戻って来る。コースはいろいろ考えて歩いているのだろうが・・・。

今日は各先生方への紹介や全校生徒への紹介があるように聞いている。
どんな一日だったか早く聞きたくて、夕方いそいそと私は家に帰る。
帰ってみると、コーラの入ったコップを片手に庭を歩いている。
「おかえりなさーい」と言ってくれる。”どうだった??”と聞く私ににこにこっとして「Good!」と彼。
家に中に引き入れて、ゆっくりと話を聞く。
朝は余裕をみて早めに出たので、学校へは30分も早く着いたようだ。

交換留学生は彼の他にアメリカから男の子が一人とオーストラリアから女の子が
一人来ている。彼らはホームステイ先の親と一緒に来ていたそうだ。
職員室で先生方に紹介され、次に体育館での始業式で全校生徒に紹介された。
「ぼくのなまえは、ホアンです。コロンビアからきました。どうぞよろしくおねがいします」
と彼はこの文章を一生懸命覚えて行った。
学校では先生の前で、次は全校生徒の前でそして教室に入り、クラス生徒の前で・・・・と
僕は今日一日で23回も唱えたよ!と目をきらきらさせて言う。(よく数えたね!)
オーストラリアからの留学生は国で3年間日本語を習っていたそうで、
[自己紹介の時、アメリカの彼と僕は、ものの1分で言い終わるんだ。
でもオーストラリアの彼女は、やおらポケットから巻き物の如く、紙を取り出し
つらつらと延々日本語で喋るんだ・・・。」その話の長い事。
まわりをみると”あくび”をしてるんだよ!」と
これまた、Mr.ビーンの如く舌をだしたり、ひっこめたり表情たっぷりに真似をして
見せるので、大笑いしながら、私は聞いた。
夕食の時、主人の前でもう一度そのエンターテインメントは演じられた。
とにかく今日一日のホアンの行事は無事終わった・・・!。
4月7日(土曜日)[プディングに挑戦]
今日は皆んな休みだ!
外はとってもいい天気。池の水替えをホアンに手伝わせて、一緒にやるかー・・・なんぞと
言っていた主人、パラきちがいの友人から携帯に電話が入ると
逃げるようにパラを積んで出かけて行った。
”私だって四六時中ホアンに気を使ってるんだからぁ〜!土曜日くらいは・・・なんて”思いながら、
(ほんとはホアンと一緒に一日過ごせる事に心弾ませている自分)

ひととおり家事を済ませ、一息着いた。ホアンはまだいい子で寝ている。
別にする事も無いんだから・・・・ほって置こう・・・でもそろそろ12時だ。やっぱり起こそう!!
「ホアン・・・ホアン・・・・!!」と声をかける。
「お布団干すからちょうだい!」とベランダから声をかける。
「どうしてー??ぬれてないよ!」と変な顔をする。
日本ではこうしてしょっちゅう太陽にさらすのよ。気持ちいいでしょ!
ふとんを抱えて持って来たホアン、ひんやりした床に転がってまたすやすや!
”ほんとに、寝太郎さんだ!!”
今日は近くの植物公園にピクニックに行こう!!
ようやく本気で起きてきたホアン。何をするにもおっとりしている。
せかせかいらいらしている自分をみると、やっぱり私は気が短いのかな?。
いや!日本という国がいそがしいのだ。
「今からちょっと出かけるわね・・・」とホアンに言って、車を出す。
我が家の目と鼻の先に植物公園が有り、今さくらが満開だろうと思う。
彼を乗せて5分、土日は訪れる人が多くて、ゲート手前でずらり車が
ゲートインを待っている。並んでいるかな?
良かった!スムースに入れた。

行き先を言わなかったので、着くまで『何処へ行くんだろう?』と思っているようだ。
駐車場に車を置き、お弁当を持って散策する。大きな吊橋に彼も喜ぶ。
朝食もお昼も食べていないホアン、お腹空いただろうと、買って来たお弁当を広げる。
家族連れも沢山来て、思い思いの時間を過ごしている。
ホアンも周りの景色を見ながら、きれいだー!!と喜んでいる。
ピンクの濃いしだれ桜も満開で、まさに良い時に来た。
お弁当を食べて今度は”ちょうちょ館”に入って見る。
ホアンの手にチョウチョが止まった。やさしいホアンはそーと手をかざす。
はらはらと宙に舞い飛んで行く。
彼がコロンビアから持って来てくれた大きな本の中にも
沢山の色とりどりのちょうちょや花が載っていた。
きっと彼の国にも、もっともっと沢山の種類のちょうちょや、めずらしい花が
あるんだろうな〜と思う。きっと自然も日本よりずっと豊かだろうし〜・・・・。
コロンビアは一年中暑いのだそうだ。
今の日本の気候は、少しひんやりして暑くなくって、とっても好きだと言う。

さあ、もう帰ろう!
長い石段を”じゃんけん ポイ”ゲームをしながら帰る。
ホアンがいつも勝って10段位上にいる。負けじと私も”じゃんけん ポイ”
最後の一段、私が逆転勝利!!
もう一ヶ所同じ様な植物公園が有るのよ。とそこへ案内する。
車を走らせながら時計を見ると、4時半をまわっている。
5時には閉園するかもしれないなー・・・と思いながら。
はたして、4時半閉園だった。
五月頃あじさいがとっても綺麗なのよ!またその頃来ましょ。
ホアンはケーキ作りを楽しみにしているので、そのまま家へと引き返す。

  日本には四季が。コロンビアは・・・・常夏だ!   僕の手のひらにおいで・・・おいで・・

   かわいいなぁ〜・・・   おかさん・・・足がふるえてるよ!
家に帰ると、ぼつぼつ日も落ちて来た。
蒲団入れるの手伝ってくれる?「はーい」とホアン。
私だったら、きちんと折りたたんで敷き安いようにするけど・・・・
どんどん無造作に取り込んでくれる。『まあ いいや!』
すこし高めの手摺なので、ちっちゃい私はいつも苦労する。ホアンは大いなるお助けマンだ。
終わると彼はいつものように、「さんぽ いてきまーす!」と出かけて行った。
服を着替え、お菓子作りの材料を揃え彼を待つ。
今日はカスタードプディングを作ろう。
ホアン、腕まくりをして降りて来た。
材料を計り、卵を割りすべてホアンに支度してもらう。
彼は砂糖と塩がこんがらがっているようだ。
さと??ちお??と私の顔を見る。ちおじゃない!しお!!
なめてご覧!と言うと「ああ・・・こっちがさとだ!」さとじゃーない”さとう”
プディングは卵を沢山使う。1個1個割るのが、気に入った様子。(卵も割った事ないの・・・?)
あらかた出来た。さあ!オーブンに入れて、待つだけよ・・・・。
「じゃー僕散歩してきまーす」と、またまた散歩。(ほんとに散歩の好きなホアン・・・)

                                   

主人は今日も楽しく飛べた様で、ご機嫌で帰って来た。
ホアンは?と聞く。”散歩よ!!”
「よく散歩へ行くんだなあ〜!」と主人も。
「ただいま、かえりましたー」礼儀正しいホアンである。
「あ!おとさん、おかえんなさーい」と彼。
お互いに今日の出来事を話ながらの夕食。
ホアンはあまり日本語にトライしようとしない。ついつい英語に逃げてしまう。
私も手っ取り早いので、つい主人が日本語でゆっくり聞いていても
ホアンが私に助けの目を向けると、つい、「おとうさんこういってるの・・・」と
英語で言ってしまっている。これはちょっと問題だ。彼の為にならない。
極力日本語で言ってやらなければ・・・・・。

ホアンはとっても日本びいきな子。
我が家の庭の、ぼた餅を重ねたような庭木に興味をもっている。
どうしたらあんな形になるのか、ホアンには理解できない様子。
「あんなになるまでには10年20年、いやもっと長くかかるんだよ。
あの松なんか30年以上だよ」
主人の言葉に”どひゃー”とびっくりのホアン。
でも僕習って帰りたい、言っている。
主人は彼が日本に居る間に、いろんな事を教えてやりたいと思っている。
「ホアンに”まめつげ”の刈り込みさせてやるかー。」
豆つげの木が何本か、お墓に植わっている。
家から歩いて50歩程の近い所に”稲垣家の墓”がある。
主人の父は、「どうせおまえ達は墓参りなんかしないだろうから
2階から見えるところに墓を作った。せいぜい2階からおがんでくれ」
と言ったとか言わないとか・・・・で目と鼻の先にお墓を建てた。
盆暮れしかお墓に顔を出さないので、きっとあのつげの木も、伸び放題だろう。
じゃあ、あれを刈らせてやろう・・・・という主人の言葉に、ホアンうれしそう!
「明日何時?」 主人「じゃー9時にするかー」
ホアン「もちょっと遅く〜ぅ・・・・」とにやっとする。
「じゃー10時起きれるか?」  ホアン「はい」  明日は植木の刈り込みだ!!
4月8日(日曜日)[ホアン書道に挑戦!]
明日は植木の刈り込みだ〜!!なんて、調子のいい事言ってた主人。
「ああぁ〜!!忘ーれとった!!。神の倉の絨毯貼りがあるんだった〜!!」と叫び
『ホアンにゴメン言っといてくれ!!』とパラ道具を昨日から積んだままのボンゴ車は
またまた今日も走り去ってしまった。
少しホアンがいつもより、口数が少ない・・・と夕べ思った私、
何か無理矢理押し付けているのだろうかー・・・ホアンも無理しているんじゃーないかしら・・・。
何か調子に載っていたんじゃーないか?とふと自分の行動を振り返り、考え込んでしまう。
何だか私もどっと気持ちが沈んでいる。寝不足だからかな?・・・

ホアンは植木の刈り込みを主人と10時と約束したが、スムースに起きる子ではない。
主人も出かけてしまったので、ホアンは寝せておこう・・・とそのままにしておく。
家の周りの草取りをしたり、雑草を抜きながら、一人で考えていた。
少し力を抜こう!でも自分で別に特別な事をしているとは、思わないんだけど・・・・。
でも我が子だったら、あれほど構わないかもしれない。
もっとほっておいてやったほうがいいのかも・・・・・
頭の中でいろんな事を考える。



お昼近くホアンが起きて来た。「おはよ!」  ホアン 「おはよござます」
「ホアン、ごめんね、おとさん絨毯貼り忘れていたんだって!行っちゃった!」
と言うと「ノ!」と言って笑ってくれた。
学校へ行く途中のスーパーに、写真現像を出していたらしい。
「今日12時以降に出来るから、とりに行って来る」と言う。
「うん、気を付けて行ってらっしゃい」と送り出す。
今年から町内会の班長の役が回って来て、集金したり、回覧を回したりと
雑用もたまっている。
今日は少しホアンをほっといて、私の用事をしよう!
そんな私を見て、「ただいまー」帰って来たホアンもさっさと2階へ上がって行く。
一段落したので、ホアンが出来上がった写真を持って降りて来た。
パラグライダーに行った時の写真だ。
もらったバインダーに、一枚一枚順序良くはせている。「彼女に贈るんだ」と彼。
そして、これは親に!とネガを別の封筒に入れる。ちゃっかりしている!!

ホアン!夕食の支度するけど、どうする?と聞くと、「イヤー!OK」と嬉しそうな顔を
してくれる。そのまなざしを見て、また元気の出る私。
今日は残りもので済ますから、あまりする事ないの。ロールケーキ作る?と言うと
嬉しそうにうなづく。
「散歩 行ってきまーす」とまたまた出かけて行った。
その間に材料をいそいそと揃える私。(さっきの落ち込みはなんだったの?)

粉・砂糖・バター・クリーム・・・・さあ作りましょ!
ひとつひとつ作ったところで、全部味見をさせる。”美味しい!”とホアン。
粉をふるいにかける。「どうして、そうするの?」と不思議そうに聞く。
卵白を泡立てる。手がだるくなるので、泡だて器を出した。
ホアン「僕、自分でする」と電動攪拌泡だて機は使わず、かちゃかちゃと手でやってくれる。
そこまでは良かったが、今度は生クリームもよ!と出すと。ぎょ!もう一回!
それでも、頑張って右手・左手交互に替えながら、見事に角が立つホイップに仕上げてくれた。
なめて”美味しい”とホアン。ニコニコっ!!
生地も出来た。後は焼きあがりを待つだけね・・・。
「さんぽ、行ってきまーす」と今日3回目の散歩に出かけて行った。

   手がふるえるよ〜!!   こうしてー”うん”と力入れるんだったなー!

   う〜ん!なかなかの出来栄えだぞー!   スペイン語はア・エ・イ・オ・ウ なんだよ!

今日は習字をやらせてみよう・・・と思い大筆を買ってきた。
散歩から帰ったホアンに、やってみる?と聞くと、嬉しそうな顔をする。
小さい時は結構習字の時間は沢山有ったし、教書大会等もよく参加したものだ。
先生に赤い墨汁で直してもらうのが、うれしかった。
書道は心の鍛錬でもある。最初墨をすりながら、心を落ち着かせる。
昔は墨汁なんて有る事もしらなかったので、とにかくせっせと、墨をすったものだ。
ホアンにも、最初はそう言って、墨をすらせたが、大筆で書いていると墨汁が
すぐ無くなってしまった。間に合わないので、買って来た墨汁を硯に注ぐ。
あ・・い・・う・・え・・お・・
ホアンの後ろから、一緒に筆を持って書いて教える。
筆を持つホアンの手はがちがちに力が入っている。バーベルで鍛えた彼の腕の力には及ばない。
「ホアン、力を抜いて!書くのは私!」 ホアン、スーと力を抜いてくれる。
要領が分かって来たようだ。一字一字同じ様にして、書いていく。
そこへ、「ただいまー」と主人。「ほー!!習字かー」
見ればなかなかの出来栄えで、けっこうびっくりの主人。
なんでもやりたがるホアンだが、一回やると後は見向きもしないので
私達も一体何処まで教えたらいいものやら、とまどう。
そうかと言って、教えるからには余りいい加減な事は教えられない。
物覚えのいい子だから・・・。
習字も『あ・い・う・え・お』迄で終わってしまうのかな〜??

彼が二度三度とやりたがるのは、今のところクッキングだけである。

4月9日(月曜日)[空手に魅せられる!]
今日からいよいよ本格的に学校が始まった。
まだ緊張しているのだろう、6時過ぎに起こしに上がると、一応目を覚ましている。
20分頃起きて来る。
味噌汁ご飯と少しお肉を焼いて付ける。朝から余り食べられないだろなーと思う。
ご飯も少し箸を付けて後は残している。

日本ではあまり残す事は美徳と思わない。私も小さい頃から、ご飯だけは
お茶碗に注がれた分は、ちゃんと食べきるという習慣を躾られた。
そして農家の娘だったので、両親が苦労して、お米を作る過程を見て育ったので
米粒一粒でも残す事はとっても心が痛む思いがする。
農繁期の頃は、外が真っ暗になるまで、父は農作業の仕事をし、
家に帰っても、乾燥の作業を遅くまでやっていた。
あれほど汗水流して収穫したものだから・・・・と言う思いが自然に
心に焼き付けられた。
そうかと言って、ホアンにそれを強要する事は出来ない。
只、我が家に来て最初ごろ、お茶碗の中に一杯米粒が付いた状態で
「ごちそうさま」をしたので、「全部こうして食べるのよ」と言って、お茶を注いで
食べさせたが、今は欲しくなければ、束にして残している。
後でそれを私がきれいに頂く事にしている。

今日からお弁当も要る。食べやすい様にと、おむすびにした。
後はお肉や卵焼きを適当に入れた。朝は忙しいので、あまり手に込んだ物は
出来ない。
デザートに、昨日ホアンが作ったロールケーキをラップに包んで入れておいた。
元気に「いってきまーす」と出かけて行く。
今日は学校でクラブ紹介が有ると、時間表に書いてあった。
ホアンあこがれの空手クラブはどんなだろう・・・・。

夕方買い物を済ませ、急いで家に帰る。

夕方ホアンは4時から5時位の間に帰っているようだ。
帰ってみるといないので、またいつもの様に散歩にでも
出かけたのだろう。
台所で夕食に支度にかかっていると、「ただいまー」と帰ってくる。
今日の報告は夕食の時主人と聞く事にした。
今日は茶碗蒸しとお刺身だ。
ホアンは卵を割るのが好き。茶碗蒸用に4個の卵を上手に割り
したごしらえ。
大根の、かつら剥きもさせてみた。
またまた手を切るのではないかと、はらはらどきどき。
でもきれぎれだが、なんとか大根を回しながら作っている。
お刺身用の魚を切らせたが、切ってはお皿に無造作に片手で放り込むので
「だめ!!」(いささか、その扱いのぞんざいな事にむかついて)と注意する。
自分達の食べるものでしょ!やさしく丁寧に扱いなさい!と
彼はきっと、いつも座っていれば出てくる状態の中で育っているんだもの
無理よねーと自分でつぶやく。
私達は長い習慣の中で、物、特に食べる物は心優しく扱い
これは又日本の食の美でもあり、それが自然に身に付いているが
ホアンはどんな環境の中で育ったか、わからないけれど、そういった
日本人の気持ちの繊細な部分を伝えられたらなーと思う・・・。

支度も出来てホアン「おとさん!」と呼ぶ。
さあ「いただきまーす」
「これもホアンが作ったよ」とかつら剥きを指差す。
マッチ棒程のさしみのけんだ!それでも出来合いの物よりいいや。つやが違う!
「今日はどうだった?」
クラブのショウがあったよ。空手すごかった!とホアン目をきらきら。
ずらっとならんで、パホーマンスするんだ。
最後に板をびしっと割ったんだ!といささか興奮気味。
”オッス”と言ってかっこいいんだ!とほんとに力が入ってきた。
これはぜったい空手で決まりね!と主人と私。
稽古着の背中は”AKIFU"「あきふ!!」だ「あきふ」とあきふが気に入ったようだ。
ホアンの目がきらきら輝き、期待に胸膨らんでいる。
主人と『よかったねー』
今夜は早く寝よう!!
4月10日(火曜日)[作務衣の似合うホアン!]
今朝もいつものように、6:20分頃ちゃんと起きてきた。
「おかさん、朝シャワー使ってもいい?」と聞く。「勿論いいですよ」と言う。
きっと今まで遠慮してたんだなと、思った。
たいてい、向こうの人は朝、シャワーを浴びて出かけると聞いていた。
ホアンはシャワーしないのかな?と思っていた。
子供達も家に居る頃は、ほとんど朝シャンだった。
ホアンも今朝は朝シャンでシャキッとしたようだ。

朝食を済ませ6:45分に出かける。玄関で見送る私。
玄関の壁にホアンの自転車のカギがぶら下がっている。
多分忘れるだろうなー・・・と黙っていると、案の定そのまま「いってきまーす」
[ホアン鍵は?!]  ”しまった”という顔。
頭のいい人って言うのは、何処か抜けているものだと、私はいつも思う。
彼も賢いのに、どこか欠落している。
ある部分緻密で、また反面ある部分ぼこっと穴があいているんじゃーないかと思う。

多分彼はいつも、目の前になにもかも全て揃えて貰うような生活をしているのだろう。
危機感はまるで無い。
彼は、ククタ(彼の住む街)では学校に行く時も、雇ってある専用の車が来て、
友達何人かで学校に行き、学校が終わり忍術道場に行く時も、
既に待っている車で道場へと行くらしい。
彼の通っている学校は、比較的裕福な家庭の子ばかりの学校だそうで
ホアンの家からは10分位だそうだ。
そんな家庭の子なので、彼は頭は素晴らしく良さそうだが、
果たしてこのまま世の中に放り出されて、生きて生けるのだろうか・・・と思うと、
私にはどうもおぼつかなく思える。
日本に来たら、いささかでも、自分の足で立って生活出来る様
精神的にたくましくなって帰ってほしいものだと思う。

今日は一日中スポーツテストが有るんだと言っていた。
出かける時もいつもの制服でなく、体操服を着て出かけて行った。
鍛えている彼はきっと握力なんかも、並ではないと私は思う。

仕事を終えて帰る途中、近くの着物屋さんに寄ろうと思っていた。
ホアンに作務衣を買ってやろうと思って、頼んでいたのが届いた。
車を走らせていると、向こうの方からホアンが歩いて、こちらに向かっている。
左端に寄せて、ホアンを待つ。びっくりのホアン。
「おかさん、僕のメモ見たの?」って聞く。『メモ? まだ家に帰ってないのよ』と言うと
「僕、ぎんこう行ってきた」と言っている。
そのままホアンを車に乗せて、着物屋さんに向う。
着物屋さんの奥さんは、ホアンを見て「まあー可愛い子ねー!」を連発。
「あがって!あがって!」と言われて、届いた作務衣を出して下さる。
紺色の上下の作務衣をホアンに着せて見る。
”何と ぴったしかんかんだ!!”
彼は背が高く、足がガリバーの如く長いので、あつらえたようにぴったりだ!
着物屋さんの奥さんも「まあ〜!よく似合うね〜!!」と上から下へ彼を眺めておられる。
「ちょっと、写真一緒に撮らせて!」と彼女。
ホアンは作務衣が大変気に入ってくれた。じゃー着たまま帰りましょ。
「おかさん ありがとござます」とホアン。その笑顔の可愛い事!!
よかった〜と心の中で呟く。
ぼく途中から歩いて帰ります・・・というので、「気を付けてね」と彼を降ろす。
食卓の机の上に、私はいつも、「おかえり ホアン!」とメモして
おやつを何か置いておく。
そのメモ用紙を見ると、覚えたての日本語で
”ほあんは ぎんこうを いきました”と書いていた。

   作務衣すがたで”オッス”   緋鯉がウノ・ドス・トレス・クァトル・シンコ・・・・5匹ネ!

今日は台湾に行かれたOさんから、ホアンに嬉しいメールを頂いた。
しかもスペイン語で!
コピーして持って帰ってホアンに見せる。うれしそうに呼んでいる。
「あなたが神の倉に行く前に、もう台湾に行かれたのよ」と言うと、
既にホアンは知っていた。
この間、神の倉に行った時、黒田さんから、『スペイン語が上手な方がもう一人
居られて、残念ながら台湾へ行かれたんだ』という事を聞いていたそうだ。
Oさんがスペイン語が堪能であるという事は、私達は全然存じあげなくて
ホアンから初めて聞いてびっくりしてしまった。

散歩から帰って来たホアン、早速作務衣姿で台所に現れる。
「じゃー、今日はパンプキンスープとチキンでも煮ましょうーか?」
作務衣の袖を捲り上げて、包丁を握る。
作務衣があまりに良く似合って、まるで割烹料理店の板長さんみたいだ!
まず、かぼちゃの皮を剥きましょう!固いから、また手を切らないでね!と言う。
時によりひょうきんなホアンは、「高校でクラブ紹介の時、見たんだ」と言って
まるでスイカ割りみたいに、まな板の上のかぼちゃめがけて包丁をふりかざし
剣道はこうなんだ! ”オチョー!!”とすっとんきょうな声を張り上げて
振り下ろす格好をして見せる。
顔をゆがめ、口先をとがらせて”オチョー!!ウンニャニャーオチョー!!”
それをなんどもやって見せるので、私は台所で笑い転げる。

かぼちゃを炊いて柔らかくなったので、”うらごし”をする。
沢山のかぼちゃをもくもくと、裏ごししてくれる。
牛乳で伸ばし、仕上げに生クリームをいれ、パセリを散らし上手に飾り付ける。
”ああー!美味しそうだ!。
全部出来上がって「おとさん!」と声を掛けている。
『じゃーいただきます』

   僕チキン大好き!煮るのかな?焼くのかな?   僕の作務衣すがた どう?

   あっ!いただきます 忘れてた!!    ぜ〜んぶ 僕作りましたぁー!

「今日のスポーツテスト どうだった?」と聞くと、何と握力は60Kgあり校内1番。
ジャンプ(立ち幅跳び)も距離2.5mで僕が一番!と報告する。
校長先生が来られて「君は握力もジャンプも1番だったそうだねー」
誉めて頂いたそうだ。やはり鍛えてるもん!。
このまま順調に学校になじめて、早く友達が沢山出来るといいのにーと
心の中で願う。