ホアンと稲垣夫婦のホームステイ日記

                                              愛子 記

     2004年 8月
8月4日 (木曜日)広島原爆研修留学生ホームステイ
今日から9日まで、中四国にホームステイしているAFS留学生達は広島原爆記念日に合わせて
広島に結集し、原爆についての研修を受ける。
その為広島地区の家庭はボランティアで家庭を提供し、留学生をホームステイさせる。
今年は土日が丁度留学生との交流日にあたるので、引き受ける事にした。
事前のアンケートに、「南米男の子と希望」と出していたところ、南米系男の子は居ないとの事で、
我が家にやって来たのは、な、なんとロシアからの男の子であった。
やれやれ、今度はロシア語か・・・とため息をついていたが、やはり留学生達は日本語を
学びに来ているのだから、日本語で通したほうがベターだと考えた。
彼等は日本に来て既に5ヶ月たっているので、日本語での日常会話は理解出来るのでは
ないかと思う。
事前に聞いた彼のプロフィールでは、英語は話せるとの事であったので、少しは安心。
我が家に来る予定の子は、Maxsim Pavlioukevich君。
黒海のすぐ側のリゾート地、『ソチ』という所の出身。
ソチ??私の頭の中には、ソチについての知識は勿論、ロシアについてさえも、新聞テレビ報道で
聞く程度の知識しか無い。
最近はチェチェン紛争で、テロが頻繁に起こり、何だか物騒な国、治安の悪い国という事ぐらいしか
思い浮かばず、大変知識が乏しいというのが正直なところである。
よりによってロシアとは・・・・と気持ちが少し重くなっている。
でも今日夕方には例年の如く、女学院高校で留学生達は待っているので、もらい受け(?)に
行かなければならない。
主人が丁度市内に出た帰りに寄って連れて帰って来る事になっている。
一日どうしたものか・・・と思いをめぐらしながら、夕方を迎える。
彼は尾道の光永さんという家庭にホームステイして、尾道高校に通っている。
性格はとっても明るく、料理は一応なんでも食べるそうである。
時間には正確で、朝もちゃんと起きて来るそうだ。お手伝いも頼んだ事は
ちゃんとやってくれますよと、ホストマザーである光永さんは言われていた。
性格が明るくて、ハイテンションなんですよ〜との事なので、あまり苦にすることもなさそうだ。
夕方7時過ぎ、マックを伴って主人が帰って来た。マックは車の中で待っている。
事務所に帰って来た主人に「どんな子?」と開口一番聞く。
「うん、いい子だ」と主人。 内心ほっとする私。
下に降りて、今度は私がマックと一緒に我が家に帰る事にする。
車に乗り、恐る恐るマックを見ると、かわいいまだ半分子供っぽさを漂わせた、可愛い子である。
髪は金髪で、流行に敏感(?)というべきかベッカムヘアーできめている。
耳にイヤホンをつけている。ロシア音楽でも聞いているのだろうか?カシャカシャと音が漏れている。
宜しくねと顔を見合わせ微笑むと、少し安心したのか、体の力を抜いて柔らかい笑顔になった。

会社の近くに最近出来た『ダイヤモンドシティー』に、夕食の買い物がてら寄る事にする。
概観を見て、「わ〜!すっげー!!」と喜ぶ。
とりあえず、エレベーターで二階に上がる。何だか欲しい物がいっぱいある様子。
とりあえず、靴を買いたいというので、靴屋さんを廻る。
ホアンもそうだったが、どこどこの靴は良い!とか、このメーカーのは履き易いんだ・・・とか
何でも良く知っている。
マックの欲しいメーカーの靴が有るか店員さんに聞くと、売り場の隅っこに案内された。
ロシアで買うと、このメーカーの商品は、品物も良くて、とても高いらしい。
自分の思っていた価格より安い事にびっくりして、「これ買う!」と手にとって離さない。
「おいおい、お金はあるの・・・??」と思いながら、値札を見ると、4千円前後の金額だ。
「これは、靴底がこんなふうにクッションになっていてね、とても歩きやすいんだ・・・」と
いっぱい説明してくれる。
「そうなの〜?」とマックの説明を聞きながら、私も手にとってみると
なるほど、かっちりしていてとても品物は良さそうだ。
最近主人は糖尿病になりかけて、食事制限や、夜のジョギングを始めたので、
それでは主人にも新調しようか・・・と考え、主人のサイズも出してもらう。
レジに品物を持って行き、支払いをしようとするマックに、
「これはお母さんがマックにプレゼントしてあげる」と主人のと合わせて支払いをすると
顔面一杯喜びを表し、「有難う!」と微笑んでくれる。
もうしばらく居たそうなマックを促して、「もう、帰りましょう、おとうさんも帰るからね」と
急ぎ夕食の材料を買い家路を急ぐ。
我が家に着き、二階のマックの使う部屋に案内すると、たいした部屋でもないが
にこにこと満足そう。シャワーを浴びてゆっくりするように言い、私は夕食の準備にとりかかる。

晩御飯を食べながら、マックの事や、ソチの事についていろいろ尋ねる。
マックのお父さんは黒海沿岸のソチと言う、日本で言えば、軽井沢の様な保養・避暑地で
ホテルを2軒経営されているという。
マックは現在15歳。という事は日本で言えば中学校3年生なの??
聞いてみると、ロシアでのクラス制度は、1年生から11年生まであり、それを終えると
大学進学となるそうだ。という事で、マックは今10年生だそうだ。
留学を終えて国に帰り、一年後に大学進学するそうだ。
「日本に来るのに飛行機で22時間かかった」と顔をゆがめて言うマック。
なぜ日本を選んだの?と聞くと、お父さんが大の日本びいきの方だそうだ。
実際日本に来られた事はないそうだが、ソチのお父さんの経営されているホテルには
日本庭園が造ってあり、またホテルの中にも、日本グッズが沢山あるそうだ。
更にびっくりする事があった。
マックのお父さんはホテル経営の前は、パラグライダーのインストラクターだったそうだ。
例によって主人が、土日にパラグライダーをやるところを見せに連れて行ってやろうと思い
ビデオを見せたところ、「あ、これ僕知ってる、パパはプロフェッショナル!」と一言。
聞いてみると、ロシアでパラグライダーのインストラクターをされていて、タンデムフライトを
職業をされていたそうだ。これには主人も開いた口がふさがらない状態であった。
そして、「今回は俺の出番はないな〜・・・」と一言。
食事を終えて、マックはコンピューターの前に座り、パラパラと打ち出した。
マックが使っているコンピューターは速度が遅くて、キーボードを押して、次の動作まで
ひと仕事出来るんだ!なんて笑わせる。それにひきかえこの早さ!と大感激。
故郷ソチのページを開いて見せてくれる。すると、「あ、これ僕のパパのホテル」と
さらりと言ってのける。へー!!パパのホテルね・・・・。
じゃー今度私達も訪ねて行けるね」というと、二人共勿論フリーパスだよ!と笑って言ってくれる。

ほんの一週間のホームステイだが、ちょっぴりロシアという国に関心を持った私達だった。

8月5,6日 (木・金曜日)広島市内で原爆研修
8月7日 (土曜日)
マックのお父さんがパラグライダーのプロであった事を聞いて、主人は自分の出番が無いと
諦めて、天気もよい事だし、さっさとパラ仲間達と飛びに出かけてしまった。
やれやれ、今日明日マックの面倒は私の役目となってしまった。
今日はお休みという事で、朝は起こさなかった。
それでも、前に我が家に居たホアンとは違って、夕べ10時頃起きますといって
ベッドに向ったマックは、きっちり10時過ぎには起きて来た。
朝ごはんを食べて、家事を済ませ、さてさてどうしよう・・・・。
マックに聞くと、どうやら先日行ったダイヤモンドシティにもう一度ゆっくり行ってみたいらしい。
普段着とズボンのベルトを買いたいと言う。

朝ご飯を食べさせて、さて出かけるとするか。

マックが起きて来たのは10時過ぎ。かつてのホアンと違って朝の寝起きは良い様だ。
自分の起きようと思った起きて下に降りて来た。
朝食を済ませ、マックの希望を聞く事にする。
やはり、ダイヤモンドシティに行って、ショッピングモードの様だ。
今年の夏はめっちゃ暑いので、デパート内で過ごすのもいいだろう。
さて、出かける支度も整ったので、ホアンとよく一緒に行ったビデオショップに連れて行く。
ぐるぐるっと一回りして、マックの興味の程を観察する。ところが全く何の興味も示さない。
尾道か福山でさんざんビデオショップは歩いたのだろう。全然面白そうにないので、ここは出る事に。
こんどは、クレドビルの中のデオデオに行く。ロシアには無いような電化製品に目を凝らしている。
どうやらここはマックも何度か足を止めて商品を手にとってみている。
と言っても、何を見ているのかと、彼の側に行ってみると、な〜んだ、ゲーム機だ。
「これ、買いたい!!」と最新式のテレビゲーム機を一生懸命眺めている。
「ダメダメ、買えないわよ!」と袖をひっぱり他の売り場へと移動。
小1時間費やしたので、マクドナルドで軽い昼食。ホアンもそうであったように、ホットドッグ、ハンバーガーが
彼らの一番お気に入りの食事!らしい。
私もたまにはいいかな?とポテトフライとチーズバーガーを注文する。
う〜ん!!全部はとても食べきれない。おばさんなので、しっかりティッシュに包んでもって帰る私であった。

さて、お腹も落ち着いたので、ダイアモンドシティに行く事にする。
マックはここで、ゲームをして、映画に行こうと言う。
先ず、ゲームセンターへ。
ああ!この歳で耳を劈くようなゲームが所狭しと並んだこんなところへこようとは・・・・。
「ここへ座って!」とマックが指し示したのは、ゴーカートというのか、車を超スピードで運転して
道路に次々とぶっつかってくる障害物を除けては運転していくゲームだ。
ゲーム機の前に座ってハンドルを握る。あたかも実際に運転しているような迫力だ。
マックとなんだかセットでゲームして、点を争うみたいだ。
やっていると、つい私ものめりこんでしまった。最後には二人共汗だくだくでハンドルを握っている。
結構いい勝負だ!私も負けじ!と頑張る。あっという間に時間は過ぎていた。
そろそろ映画に行こうか!!
ここの映画館は「バルト11」といって、11箇所の映画館があり、見たいものをチョイス出来る。
時間の事も考えて、結局「スパイダーマン」を見る事にした。
マックはどこかで見た事があるらしいが、私に是非見ろと薦める。
スパイダーマンが恋する設定になっている。なかなか面白かった。
映画館から出ると、外はすっかり薄暗くなっている。岩国に行った主人もそろそろ帰ってくる時間だ。
携帯で予定を聞くと、まだ途中らしい。夕ご飯もパラ仲間の人達と食べて帰るという。
私達ももう一本見るには遅い時間なので、夜の食事を買って帰る事にした。
マックは今日一日ショッピングであっちこっち歩いてすっかり満足の様子。
彼が買ったのは、Tシャツ、ベルト、サングラス等だったが、最近の若者は、「何処のメーカーが良いとか
これは、アメリカの何とか言うブランドだよ」とか、本当に良く知っている。
私なんか全く興味は無いけれど・・・・。

帰宅して、夕飯の支度が出来るまで、パソコンに座り、ロシアのコミックみたいなのを見ているマック。

ショートステイだったけれど、マックは気持ちも優しいし、頭の良い子だった。
将来どんな若者に成長していくのか、とても楽しみだ。