ホアンと稲垣夫婦のホームステイ日記

                                                   愛子 記

20(土曜日)『神の倉へ』
今日は天気も良いので、主人は早々と神の倉へ出かけてしまった。
「5月の連休に九州パラ旅行があるので、お前も少し飛んで慣らしておけ」との
主人の仰せである。
今日は私達の娘同様の麗奈が来る予定だ。
主人が出かけて間もなく、お母様に送ってもらい麗奈の到着だ。
「今日、おかさんに付き合う?」と聞くと快く[行く!行く!」と言ってくれる。
実際飛ぶことに興味なければ、風待ちのこのスポーツは退屈なだけなのに。
神の倉に着くと、何機か上空に浮かんでいる。主人の姿は無い。
携帯に電話すると荒谷山だという。
麗奈と一緒に来たよ!というと、「ほっかー!今から飛んで降りるから・・・」
心なしか声が弾んでいる。
今日は荒谷山も神の倉も両方テイクオフ出来そうだ。
主人が飛んで降りて来るのを待って、ボンゴ車で神の倉へ上がる。
今日は台湾から一次帰国の大方さんも来られている。最初の1本目で500〜600m
上がり、気分は上々である。

神の倉は南の風が強くて、私の様にあまり上手でない者には少々危険。
お昼のおむすびを買って上がったので、ほおばりながら、良い風が入るのを待つ。
ベテランのフライヤーは殆ど飛び出して行き、上空には7〜8機フワフワと浮かんでいる。
勿論、主人もおむすびなどかじってはおられない!とばかりに早々に飛び出して行った。
テイクオフには私と麗奈、同じ飛び亀の友井さん、ビギナーの杉本さんの4人だけとなった。
上空に浮かんでいた数機もいつのまにか、いなくなっている。サーマルもなくなり
皆さんほとんどランディングされたようだ。
テイクオフの準備をしていると、「ランディングの風は今強いから、待ったほうが良いよ・・・」と
主人無線いれてくれる。テイクオフの風も相変わらず、南交じりの風である。

   ホアン、おかさん飛ぶからね〜!!    わぁ〜ぃ! 上がって行くぅー!

いつでも出れる状態に準備して、30分位待つ。少しまっすぐの風も入り、思い切ってテイクオフ。
飛び出すとすぐにトップアウト。麗奈がビデオを構えて撮ってくれている。
彼女は私が飛ぶのは初めてみる。このパラグライダーはどうも私にピッタリくるスポーツだと
思わないので、少々恥ずかしい。
30分位ソワリングを楽しんで、風も強いので、主人が下にいる間にとランディングする。
途中分けもわからず廻していると、「風が強いんだから、廻すな〜!!」と主人。
やっぱり私は下手だな〜・・・・。でも、なんとか無事ランディングする。
テイクオフで待っている麗奈はきっと退屈だろうと急ぎ皆さんでテイクオフに上がる。

今日は夕方由也も我が家に来ると言う。
じゃーみんなで何か食べに出ようという事にした。

明日は主人はアステールプラザで『菊生会』と言って謡の発表会である。
今日も夕方から、明日の為の稽古に出かけた。
主人が終わるのを待って、9時頃4人で食事する。
実は麗奈は音楽をやっているので、この”謡”、合い通じる処があるのだろうか
「是非聴いてみたい」と言う。
明日が早いので我が家にお泊りして、明日一緒に出かける事にしている。
主人も麗奈が聞きに来るとあっては張り切らざるを得ない。

稽古を済ませた主人と待ち合わせて、4人で食事をする。
10時半家に帰り、紋付袴を出し明日の主人の謡の装束の準備をする。
幸いゲタ骨折もどうにかお行儀出来るまでに回復した。
明日早いので、主人はさっさと上がって寝てしまった。

私と麗奈は、テレビスペイン語講座を毎週勉強しているので
12時40分からテレビの前に座る。

今日は『importante』を覚えた。・・・・でも2〜3日するとすぐ忘れてしまうんだから悲しい!
ま、この単語、英語と同じようなので、覚えやすい。            

                                    

スペイン語は時々英語とそっくり、時々似ても似つかない単語であったりする。
ちなみに、アメリカ人というのを英語では『American』と言うけれど、スペイン語では
『estadounidense エスタドーニデンセ』と言う。これを覚えるのは至難の業である。
麗奈と二人で頭を抱え込んだ・・・・。

4月から彼女達も週休2日制となった。
土曜日の朝はいつもは昼近くまで寝るのではないかと思うが、明日は7時起きだ!
今日はこのくらいにして、2階に上がって寝ることにした。
枕もとにはスペイン語のCDを置き、寝ても覚めてもやる気の二人!
ところが、ものの5分もしないうち、CDから流れてくるスペイン語は
子守唄代わり。二人共すやすや・・・。
やれやれ、先が思いやられる・・・。

                                        
  
                                         

21(日曜日)『謡曲 菊生会』
今日は毎年恒例の謡の会”菊生会”がアステールプラザである。
先日の4月18日宮島でも謡の奉納行事”神能”があった。今年で5年目の参加であるが
今年は残念な事に”ゲタ骨折”のお陰で、一時間半も厳島神社の能舞台には座っておれない
という事で、ビデオ撮影を受け持った。
ここでは、『敦盛』という演目を皆さん謡われた。
今日のアステールプラザでの演目も同じ『敦盛』である。
但し主人は”ワキ”の熊谷次郎直実で、うなるせりふも多い。
ゲタ骨折もほぼ完治したようなので、今日は『ワキかた』を努めるべく、朝早くから
出かけて行った。
私達も日曜だが、主人の出番が早いので、麗奈を7時半に起こし、支度をする。
朝ごはんを食べていると、由也も起きてきた。
「8時半には出るよ」と言うと、それぞれさっさと身支度を整えている。

日曜日で車も少なく、アステールプラザに9時半過ぎには着いてしまった。
主人の出番10時には未だ少し早いので、二人は会場の他の場所を探索だ。

いつもは、聞いていると謡の文句が子守唄代わりになって、こっくりこっくりと船漕ぎする私。
前の座席でこっくりこっくりは失礼なので、少し時間があるので、コーヒーを飲んで、
しっかり目を覚ましておく。50分頃、二人が帰って来た。
「この次だよ!」と言うと、二人共席に着く。
さあ、主人はじめ『敦盛』を謡う方々が潜戸を潜って出て来られた。
着物もちゃんと着付けている。
主人の太鼓腹もこんなふうに紋付袴を着付ける時は結構見栄えがし、得な事もある。
スリムな人は腰に補強してないと、袴がずるずると上に上がって来てしまうので
バスタオルを入れて矯正されている。

謡のほうであるが、今までは本を見ずに、空で覚えて唸っていたが、最近では
謡本を持って見ながら唸っている。
もう頭が固くなって、脳みそもぼろぼろで私同様覚えるのが困難な様である。
演目『敦盛』の一場面、20分位を謡った。
主人が58歳、以下皆さん50代60代前半の御歳の方達である。
ところが皆さん、お能の世界では”若手”なのだそうだ。
それもそうだろう・・・やはりお能・謡は素人考えだが、大変お金もかかるし
1年や2年では、この様に人様の前で謡う事は出来ない。
主人もこの謡を習って、もう25年位になるだろうか・・・。う〜ん、年季がいるんだなー・・・。

主人の謡の先生である人間国宝『粟屋菊生』先生は御歳80歳にして、いまだ朗々と
野太い声、舞台の袖で主人達の謡いを聞いて、ずばずばと細かいところまで指摘され
本当にご立派である。

隣で麗奈が主人のビデオ撮りをしてくれる。
つい先日、厳島神社の奉納時に能舞台で謡われているので、皆さん声が良く揃っている。
私は細かなところはわからないが、”若手”というだけあって、他の方々と比べると
声に”張り”も有って、聞いていて心地良い。
主人達の謡いは時間的には20分位で、短いけれど、長い方では一時間もお行儀して
謡われるので、いざ終わって立ち上がろうとすると、しびれて足の感覚がなくなり
ひっくりかえってしまう方も時々おられると聞く。

男性の方の”謡い”ばかりでは、本当に子守唄になってしまうが、仕舞や舞囃子も有って
ひと歳とられた、女性の方々が、すばらしいお着物で、舞われるのである。
これも見ものだけれど、演目によって、きらびやかな能装束も素晴らしい。
今回は『羽衣』という、演目があり、この能装束は素晴らしかったようだ。
麗奈はこれをみて感嘆の声をあげていた。

私は午後からお花の方の集まりがあり、二人を主人に預けて、会場を後にした。
いずれにせよ、麗奈にとっては、なかなかこのようなお能の世界など、見聞きする機会が
ないので、大変喜んでくれた。

   粟屋菊生先生とご子息の明生先生    今回の演目は 『敦 盛』

   仲間の太田さん・今回は太鼓でも参加    太鼓、つづみ 笛をバックに仕舞いを舞われる。

   麗奈と由也が見に来てくれた!    本を見ながらなので始終俯いて

   

謡の発表会が近くなると、主人は車を運転しながら、カセットに演目を吹き込んで覚えていた。
ある時ホアンがこの謡を聞いて、「リラックスする」と言ったそうである。
僕おとさんの謡いCDコピーして持って帰ると言っていた。

ホアンは本当に日本的感性が強かったのだろうか、NHKの番組である『プロジェクトX
テーマ音楽を聴いて”とりはだが立つ”と言った。
その言葉を聞いた時、主人は本当にびっくりしていた。
実は、ホアンは主人がダビングした『プロジェクトX』の番組を5〜6本見ていた。
ホアンは日本の素晴らしいテクノロジーに、憧れと尊敬の気持ちを持っていた。
だから、このプロジェクトXの内容に、感動するところが大きく、とりはだが立ったのだろうと思う。
主人もテーマ音楽を聞くと、条件反射の様にとりはだが立つと言う。

ホアンが日本に居る間に、おとさんの謡っている場面を見せてやりたかったが
残念な事に機会が持てなかった。
私のリズム体操の発表会も「おかさん、行く行く!」と言ってくれていたけれど
結局これも見せる事が出来なかった・・・。
実際にこの『謡』というものを見たら、ホアンはどう感じただろうか・・・・。

仕舞いの装束のきらびやかな事もさることながら、朗々と謡われる演目のリズムは、
聞いていて耳に心地良い。
謡いばかりでなく、仕舞いの後ろで演奏される”大鼓・小鼓・笛・太鼓”が加わると、感動する。

麗奈に「また聴きに来たい!」と嬉しいことを言ってもらって、主人は大満足の様子。
ますます張り切る主人である。