ホアンと稲垣夫婦のホームステイ日記

                                                   愛子 記

(金曜日)『親子水入らずの食事』
朝起きて下に降りてみると、ホアンは起きている。
「寝なかった?」と聞くと、「今から寝るよ・・・」とホアン。
私の出かける8時半にこたつにずべりこんだホアン、眠りにつく。
                                          

3月23日に我が家に来たホアン。過ぎ去って見るとほんとに10ヶ月は早かった。
こんなにも皆さんに愛され、一人一人に確実に関わったホアン。
ホアンはどんな人にもけっして嫌な顔を絶対しない子だった。
その事がクラスメートの一人一人に確実に自分の存在を焼き付けた事に
なったのだろうと思うし、ホアン自身それを意識してやっている訳ではない。
これは生まれ持ったホアンの天性なのだ。

  

今日は夕方クラスメートと最後のエールエール館で遊ぶ予定だ。
その後、『今日だけは私達に頂戴ね』と皆さんにお願いして、親子3人水入らずで
食事することにした。
午前中は我が家に麗奈が来る。彼女とも最後のお別れデートだ。
麗奈に、お昼は何でも冷蔵庫にあるもの食べなさいと伝えておく。
今日は、ホアンもコンポを梱包する前に、CDからMDにラテンミュージックの
コピーを頼んでおいたのでそれをしたり、少し忙しい。

夕方4時過ぎには二人でエールエールに出かけたようだ。
由也君が「おばちゃん、何時までホアンと居ていい?」と連絡あるので
「じゃー、7時にエールエールにホアンを迎えに行くから、お願いねー」と伝える。

仕事を終え、6時過ぎ頃から、急な電話など無いようにと願いながら・・・
6時45分頃、会社を出る。運悪く携帯電話の電池が切れてしまっている。
今日はホアンの携帯を私が持っているし、主人のは家に忘れてしまった。
連絡のとりようがないので、事務所を出る時、由也君にその事を伝える。
時間にはからっきしルーズなホアンなので、由也君に頼んでおけば100%間違いない。
「7時にかならず来させてね」とお願いしておく。

7時5分前に着き、エールエールの駐車場の入り口で車を止めて待っいた。
丁度7時になった時だ、向こうから由也君が走って来る。
何かあったかな?と不安になる。
「おばちゃん、今麗奈とホアン最後のプリクラしてるから、もうちょっと待って!」と
その事をわざわざ言いに来てくれたのだ。

さすが見込んだ由也君だけはあると、感心する。
程なく、ホアンが一人で何か大きな紙袋を下げてやってくる。
お友達にお土産をもらったようだ。
「おかさん、遅くなってごめんなさい」と言う。
「さ!行きましょう・・・」と中心街まで、走った時、サイン帳は?と皆さん一人一人が
ホアンにメッセージを書いてもらうよう、由也君に渡しておいた。
それを貰ってくるのを忘れた様だ。
あわてて、公衆電話を探し、由也君に電話する。
「しまった!あれコッシーが持ってるんですよー」と由也。越君に電話だ。
運良く越君まだエールエール館に居てくれた。
「おかさん、ごめんなさい、僕かばんの中に持ってる」と言う。
また再び引き返し、エールエール館のところでサイン帳を受け取る。

やれやれこれで、やっと3人の”最後の晩餐”となった。

どこに行こうかと、主人と相談した結果、ホアンに、いか・タコの生き造りを
食べさせてやろうと、『いか本陣』に予約を入れておいた。

ホアンはいつかテレビで、生きたままのタコを食べているのを見て
それが口の中や、顔中に吸い付くのをひゃあひゃあと言って見たらしい。
それが自分にはとても出来ないがすごく興味があったらしい。
じゃー今日はそれに挑戦させてやろう!という事になった。

「いか本陣」は生き造りの割烹料理店で、バブル前頃には、主人も接待の
度によくこの料亭を使っていた。
当時はお店はいつもお客様で一杯だった。
久しぶりに行ってびっくり!お客様はまばらで、私達の為にずらり仲居さんが
整列してお出迎え頂いた。
ホアンにまずお店の入り口に有る、大きな”いけす”のいかを見せる。
これが今からホアンの口に入るんだよ〜・・・と主人が言うと、”ひゃー!”と
ひきつった顔をする。

部屋に通されしばらくすると、お茶に続いて、まず、いかの丸ごと一杯が
大きなお皿にのって出された。
さっきまで生きていたのだから、透き通ってつやつやしている。
口の先はとがったり、おこったりしているように見える。

仲居さんがハサミを持って来られ、「こうして、切って召し上がって下さいね」
やって見せられる。みると、口の先の足はグニョグニョと動いている。
ホアンは目を白黒させながら、ヒーヒー ヒャアヒャア言う。
「おとさん、僕出来ない!」とか何とか言いながら、箸を差し出している。
小皿に取り、お醤油をつけるとその足は再びクニャーと動きまわる。
ホアンは目をつむるようにして、口にぱくっと入れる。
「でも、美味しい!!!」と目を輝かせている。
エンペラの方も生きが良いので、ホアンが箸でつっつくと色が次々と変わる。

コロンビアでは考えられない。ホアンが皆に言ったら「野蛮人!!帰れ!」だよ。と
笑わせる。ほんとにそうなんだろうな〜、生きたままを口にするなんて、とてもとても
考えられないんだろうなー。どうして日本人こんな事出来る??とホアン何度も言う。

次は太巻きと言って、巻き寿司の中に新鮮な魚介類をいれて巻いてある。
2きれも食べればお腹一杯になってしまった。
ホアンもよく食べてくれた。
さっき出たいかの活き造りの残ったのは塩焼きにして頂いた。
これも、もともと新鮮なので、とってもこりこりして美味しい。
ホアンも”美味し〜い!!”と舌鼓を打っている。
『生きている物を食べた!』これも帰って話しのネタになっただろう・・・・と主人。

お腹も一杯になった。さあ帰って本格的にパッキングをしなければ・・・。
まだ荷造りには、何〜にも手をつけていない暢気なホアンである。
明日の朝は帰ろうかというのに!

  
  


我が家に帰りついたのは、9時半頃だった。
ホアンは居間にところ狭しと、持って帰る荷物を広げまわしている。
足の踏み場も無いほど、ホアンの荷物であふれかえっている。
さあ、今からパッキングだ。

コンポにスピーチの時の優勝の盾K−1のプロテクターやグローブもある。洋服も沢山だ。
来た時から逐一記録していったビデオは20本にも及ぶ。
私が”パパラッチ!パパラッチ!”と言ってホアンを取り続けた写真の数々
アルバムにして15冊にもなった。送ってあげるというのに、ホアンは全部持って帰ると
言って聞かない。
それに、私の買い足した秋物の洋服もパンツにいたるまで、全部持って帰るという。
加えて学校のブレザーまで”思い出、思い出”と言って持って帰りたがるのだ。

スーツケースに大きなバッグ。K−1に行く時に使っていた肩にかけるバッグ。
そしてリュックサック。これにすべて詰め込まなければならない。
パッキングは主人がすべてした。ほんとに上手に入れていく。
それを見て「おとさん、じょうず!おとさんすっごいじょうず!」とただ呆然と見ているホアン。
コンポも盾も見事に詰め込んでいく主人。私も感心する。
結局ホアンがしたのは、コンポをビニールで包み、ガムテープでくるんだだけ!
後はしげしげと主人の梱包の手際よさを眺めていただけだった・・・・。

   この洋服も全部持って帰るのかぁ〜?    え〜と、このずぼんも入れて・・・と。

   これはK−1の時のだいじな物だよ・・・。    ひゃー!だいじょうぶかなぁ〜!!

体重計で量ると、制限重量ドンピシャ32Kgだ。グリーンのバッグは28Kg。
ホアンは頭に”神風”のはちまきをし、宮島のクラスメートとの遠足で買った
三角の傘をかぶり、面にはサングラスと、帰る時の出で立ちの姿をする。
サングラスはたぶん自分は泣いてしまうので、涙を見られたくないという思いからだ。

肩にK−1のバッグと背中にリュックサックを背負い、両手にスーツケースと
グリーンのバッグを持ってみて、目を丸くし、『ホアン 死ぬ〜!!』と言う。
ほんとに大丈夫かぁ〜!!こんなに詰め込んで!!
主人の手際の良い梱包で2時間ほどでパッキングが終わった。
後はすこし休もう!
(土曜日)『別れの朝・・・・』
とはいうものの、ホアンにもうひとつ、どうしてもやってもらわなければならない事がある。
校長先生に頼まれた、色紙を書かさなければならない。
依頼のスペイン語でとも思ったが、誰が見てもわかるように、スピーチコンテストで
優勝した思い出の、「身体髪膚、之を父母に受く、敢えて毀傷せざるは孝の始めなり
を書きなさいと薦めた。
何回か練習した後、筆であずりこずり書いていく。
なんとか書き終えた。結構上手に書いている。時計を見ると3時である。

すべてやり終えて一段落。買って来たケーキを食べてくつろぐ。
ホアンは「おかさん、最後のお風呂に入っていい?」と言う。
「ゆっくり入ってらっしゃい!」と言いおき、私もこたつで横になる。
由也が『ホアン広島駅に6時半には連れて来てよ!』と言っていた。
この分だとうっかり寝たら、寝過ごしそうだ。
もうこのまま寝ないで夜明かししようと思う。
お風呂から出たホアン、ちょっとバイクで一回りしてきます。と言って
出かけて行った。
周りの景色も今は懐かしく感じられる事だろう。

外は寒かったか、ものの10分位で帰って来た。
そろそろ5時過ぎだ。2階にお化粧しに上がり、私も出かける支度だ。
主人はコタツで横になり寝てしまっている。

6時には出かけなければならない。あわてて主人を起こす。
ホアンも主人も身支度が整った。さあ、出かけなくっちゃ・・・・。

石臼のように重い荷物を玄関に運ぶ。
ファミリアでは乗り切らないので、ボンゴ車に荷物を載せる。
ついさっきまで、まだ全然帰る気がしない・・・とにこにこしていたホアンだったが
玄関で、私が「ホアン駅でお別れ出来ないと思うから・・・・」とホアンを抱き寄せ
別れをする。
「おかさん、まだ駅で・・・・・」と言いながらホアンの目に涙が溢れる。
「じゃー、わしもここで、がんばれ!」と主人も固い握手。
それからは、車の中でホアンも私も嗚咽がこみ上げ、ずっと涙が止まらない。
ホアンも時々後ろの席で、しゃっくり上げる程泣いていた。
途中、車の中で主人は「遠き別れに耐えかねて この高殿に登るかな
悲しむ泣かれ わが友よ またいつか見ん この別れ・・・」
という
別れの歌を口ずさんだ。
これは”惜別の歌”だよ・・・」と主人。

広島駅に着いたのは6時20分過ぎ、少し車の中で別れを惜しむ。

「ホアン6月に来る時はかならずおかさんの所へ来るのよ」と言うと
泣きはらした目で「もちろん!」とホアン。
ほんとに来てくれる事を心から願わずにはいられない。

6時半になったので、駅に入る事にした。
改札口のところには、すでに沢山のクラスメートが来てくれている。
由也、越、麗奈、なつ来、伊竹、まゆこ、田谷君、おーちゃん、須やちゃん、パクちゃん、を初め
沢山沢山のクラスメート。砂ちゃんのグループも皆来ている。
ホアンのところへみんな駆け寄ってくる。
お土産を渡す子もいる。それぞれがホアンと写真を撮ったり、話をしたり
ホアンとの別れを惜しんでいる。

   さ!これですべて終了だぁ!    麗奈、とうとうこの日が来ちゃったね・・・・。

麗奈はもうしくしく泣いている。
おかあさん!と私に駆け寄って来た麗奈と抱き合って泣いてしまった。
今、普通科は修学旅行で北海道に行っている。もし普通科も加わったら
大変な人数の子供達がホアンとの別れを惜しんで駅に詰め掛けた事だろう。
国際科1組と2組だけでも、40名近く来てくれている。
今更ながら、ホアンの存在の大きさを感じてしまう。
女の子は目にハンカチを当て泣いている子もいる。

ひとしきり別れを惜しんだが、そろそろプラットホームに入らないといけない。
13番線東京行きの電車だ。みんな揃ってぞろぞろとホアンを取り囲み
プラットフォームに上がる。
今日一緒に帰るマレーシアのポークーンも友達に見送られて来ている。
アグネッセはどうしたろう?姿が未だ見えない・・・。

別の列車のベルがなると、なんだかせかされて悲しみが湧いてくる。
由也と越がホアンと抱き合って泣いている。
この二人にとってもホアンとの別れは本当に辛いものがある。
由也も顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。
発車5分前、私はもう一度ホアンをハグして、また絶対来るのよと耳元で言った。
ホアンは言葉にはならなかった。
ホアンはおとさんを捜していた。ずっとビデオを撮っている主人を見つけて
「おとさん!」と叫ぶ。ホアンは嗚咽。主人もホアンを抱き寄せる。
西村さんもホアンを抱いて、肩をしっかりとたたき激励された。
麗奈も出来るだけずっとホアンの手を離さないでいる。
ホアンにとっても麗奈との別れが一番辛い別れだろう。
一番愛している時に訪れた別れのようだから・・・・。

   ホアーン また帰ってくるのよ・・・・。    レイナ!レイナ!・・・・。

   西村さん 「ホアン、皆さんのご恩忘れないのよ!」    ううう・・・・・

7時38分ついに、私達は駅員さんに黄色いラインに下がるよう注意され
ホアンと引き離されてしまった。
ホアンは列車の中から涙を一杯うかべて天を仰いでいる。
ベルの合図と共に扉が閉まる。
発車のベルと共にスーとプラットホームの列車は滑り出した。
”ホア〜ン!!”と女の子達の叫び声。

ついにこの瞬間ホアンは10ヶ月あまりの広島生活を終え、胸に一杯の思い出を
秘めてコロンビアへと帰ってしまった。
今日夕方成田からロスに飛び、そのままボゴタへと帰って行く。
  
  

残されたクラスメート達は当分の間呆然としている。
グループに別れ、泣いている子。呆然と立ちすくんでいる子。
由也は泣きじゃくっている。
私は由也に駆け寄り抱き寄せた。「おばちゃ〜ん!!」と激しく泣く由也。
絶対また来るから、また帰って来るから・・・と背中をさする。
越君も泣いている。越君を抱き寄せ一緒に泣く。越君も「おかさん!!」と
激しく泣いている。
ホアンと会えて良かったね!絶対忘れないね!と背中をさする。
「おかさんのところもまた絶対行くからね・・・」と言って呉れる。

麗奈が心配になり、駆け寄り二人で激しく泣きじゃくった。
「おかさん、ホアンが行っちゃった・・・・」麗奈の悲しみは深い。
私はしばらくの間、麗奈の背中をさすっていた。

15分ばかりプラットフォームにたたずんでいたが、「みんな、兎に角ここを出よう!」
という主人の掛け声にみんなやっと我に返り、肩を落としとぼとぼと、それぞれが
改札口へと引き返す。でもまだみんな改札口から出ようとしない。
皆さん学校があるのだが、この様子ではとても学校へは行きそうにない。
由也はへたり込み、越君も座り込んでいる。
砂ちゃんのグループも座り込んで帰ろうとしない。
他の女の子達もそれぞれがハンカチを目にあてて、呆然とたたずんでいる。
こんな別れの光景はかつて見たことが無い。
ホアンもさぞかし列車の中で泣いていることだろう。

   泣きじゃくる由也・・・・    呆然とたたずむクラスメート・・・・

主人と私はみんなに別れを告げ、とりあえず家に帰る。
これから、ごゴミだめのようになった我が家の掃除をしなければ・・・・・。
少し辛い!
夕べ寝ていないので、主人は布団にもぐりこんだ。
私も掃除を・・・と思いながらこたつに横になったらうとうととしてしまった。

3時頃目をさました主人は天気が良いのでさっさと飛びに行ってしまった。
明日からまた私達の平凡な毎日が繰り返される・・・・。

    お別れ百景
(土曜日)『・・・・・・』
『留学生奮闘記』と題してホアンとの10ヶ月の日記をつらつらと綴ってきました。
ここに無事ホアンの留学生活も終止符が打たれ、ホアンは無事コロンビアへと
帰って行きました。
長い間、私のつたない日記を愛読頂き有難うございました。
この日記はここで無事終了!といきたいところなのですが、ホアンがコロンビアに
帰って向こうの様子をビデオ等で送ってくれる予定です。
その時はこのホームページにあげて、ホアンのコロンビアでの生活ぶりを
皆様に見て頂こうと思っております。
よって、日記のネタは少なくなりますが、このまま継続しておこうと思っております。
ホアンのクラスメートも時々我が家に遊びに来てくれるようです。
その様子もまたビデオ撮影して、コロンビアで楽しみにしているホアンに
見せてやろうと思っております。
このホームページを通して、お互いにずっと忘れず交流出来たらと切望しております。
筆不精なホアンですし、何せコロンビアから何か送って来ても、2ヶ月もそれが
かかってしまう状態なので、先が思いやられますが、でも時々様子が入ったら
更新致しますので、二ヶ月に1度位、このホームページ覗いて見て下されば幸いです。
(火曜日)『おとさん、おかさん 有難う・・・』
2日に日本を発って成田からそのままLosに向かい、帰途につくと聞いていた。
まっすぐ帰っていれば既に3日には、ボゴタに着いているはずだ。

今日は既に5日になろうとしているのに、着いたコールは無い。
麗奈やクラスメートが心配して、「おばちゃん、ホアンから電話有った?」
メールをくれたり、電話してきてくれる。
「全然ないのよ・・・」としか言いようが無い。全く連絡ないのだ。
お母様からのメールでは、「ボゴタに迎えに行く準備が整いました・・・」とあった。
ボゴタでなつかしいクラスメート達と会って、一泊したとしても昨日は着いているはずのに・・・。
少し心配になってきたが、そこはいつもケセラセラのホアンなので、パーティ!パーティで
時を忘れているのだろう・・・と我慢する。

                                              

やはりホアンの居ると居ないとでは、気持ちなんだか淋しい・・・。
遅くてもやきもきしながら、ホアンの帰りを待っていた毎日を思い出す。
毎日、山のような買い物をしなくて済むのは、楽だけれど少し淋しい。
我が家は再び、納豆、味噌汁の生活に戻る。

5時半過ぎ帰宅すると、電話の留守録ランプが点滅している。
だれかな〜??と思いながら、再生を押す。
すると、あああ・・・!ホアンの声だ! 思わず涙が出てしまった。
「おかさん!もう昨日着いたけど、なんどでもでんわしてみたことあるけど、もし
また留守だったら、オフにまた電話する。チャオ・・バイバイ」
と言っている。
ああ!ホアンが掛けて来てくれたんだ!時間は今朝の9時45分だった。
コロンビア時間では、4日の朝8時前だ。
たぶん、ホアンは日本の時間換算を間違えたのだろう。
「僕、おかさんの居る時間わかるから・・・」と言っていたのだが・・・・。
ああ・・なつかしいホアンの声を聞いて、しばらく涙が止まらない。


すぐに麗奈に携帯電話する。「麗奈、聞いてるんよ!」といってホアンの声を再生する。
電話口で泣く麗奈。
由也も近くに居た様だ。由也に代わったので、もう一度再生。
由也も電話口で激しく泣いている。
こんなにみんなホアンの声を聞きたがっている。
ひとしきり、泣いた麗奈、「おかさん、ありがと、ありがと・・」と声をつまらせる。
この留守録は絶対消す事出来ない・・・。

由也は「また、おばちゃん、行くけんね・・・」と言って電話を切る。
私も後から、何回ホアンの声を聞いたろうか・・・。会社の主人にも、すぐに
ホアンの無事の帰宅を連絡し、声を再生した。

ようやくホアンの声を聞けたので、安心して夕食の支度にとりかかる。
二人だけなので、超!質素な食卓である。

夜、ホアンの写真を整理したり、のんびりしていると、電話のベルが鳴る。
「おかさん!・・・」 ああ・・ホアンだ!
「ホアーン!!ホアンね、帰ったの?」 ホアンが電話してきてくれた。
何度も電話したようだ。ボゴタには2時間ほど居て、すぐホアンの町ククタに帰ったそうだ。
あの、頭には傘をかぶり、神風のハチマキをして、意気揚揚と帰ったけれど
ホアンの級友達は、すでにそれぞれが大学に進み、仲の良い友達とも
殆ど会えなかったとの事。少し淋しい帰国となったようだ。
「おかさん、僕日本帰りたい・・・」と声を詰まらせている。
「この家は僕の家でないみたい、仮に住んでいる気がする」と言う。
実際、ホアンの家は彼が日本に居る間に、新築されたとの事で、新居に
帰った事になるのだが・・・。
しばらく、ホアンと話をし、電話代も高くつくので、主人と代わる。
主人は無事ホアンが着いた事を喜び、ホアンも声にならなかったようだ。
「麗奈に電話したんか?」と聞く主人。「まだ・・・でも、もう時間遅いから・・・」とホアン。
「何言ってるんだ、携帯にしろよ!」と薦める主人。

30分後に麗奈から「おかーさん!ホアンから電話あったよー・・・!」
嬉しいメールが入っていた。めでたし!めでたし!である。
だいたいが筆不精、電話掛けたがらないホアン、これも主人そっくりであるが、
たぶん、コロンビアからの便りも2〜3ヶ月待つ覚悟でいたほうがよさそうである。
まずは、ホアンが無事コロンビアに帰国した事を報告致します・・・・。

(木曜日)『ホアンに電話』
5日にホアンの声を聞いて無事ククタに帰った事がわかり一安心した。
コロンビアから日本への国際電話はいくらぐらいかかるのか、わからないので
遠慮がちにホアンも掛けていた。
今日はもう一度ホアンの声がゆっくり聞きたくて、会社から電話した。
日本での朝方11時はコロンビアでは夜8時頃になる。
いかに言ってもホアンは寝たりしていないだろう・・・。
ダイヤルを廻す前に、スペイン語の本で、電話のかけ方を練習した。
「Oiga, ?vive ahi el senor Mendoza?] とゆっくり、ゆっくり言ってみた。
電話口では Hallo! Hallo!" と野太い声で言っている。
そして、次に”おかさん?!”と言う。あ!ホアンだ。
とたんに安心して、”ホアン〜!!”と声をかける。
「ぼく、スペイン語だったので、友達が、からかって電話して来たのかと思った」とホアン。

15分位話したろうか、「おとさんは?」と主人を気づかうホアンに主人と電話を
代わり、主人も少し話しをする。
短い時間だったので、何を話したか・・・・でもホアンの言葉がうれしかった。
「おとさんとおかさんに僕は最後まで有難うと言うのを忘れてしまった。
だから今、”ありがとうございました・・・・”と電話口でそう言っていた。
その言葉を聞いて胸がつかえる思いがして、涙があふれてしまった。
ホアンの声もどこか、涙声で、日本での事が頭を巡っている様子だった。

ホアンの学校は既に2月から新しい学年3年生が始まっている。
ホアンも身体を休めて、来週から学校に行くつもりだと言っていた。

「おかさん、僕、そろばん、AFSの世羅合宿の時作ったわらのぞうりを持って帰るの
忘れた・・・」と言うので、ホアンに送ってあげるものまだ沢山あるから
荷物そろったら送ってあげるから・・・と言っておいた。
でも、ホアンの家は新築の家らしく、住所がわからない。
「住所、メールで送っておいてね」と頼んでおく。

あ〜ぁ、ホアンの声が聞けて良かった!元気そうでなによりだった。
(金曜日)『麗奈泊まりに・・・』
今日は麗奈が我が家に泊まりに来る。
私達もホアンが帰って火が消えた様に寂しくなってしまった。
でも嬉しい事にホアンが居た時と変わらず「おとさん!おかさん!」と言って
由也、越君達が入れ替わり立ち代り来てくれる。
ホアンが帰って私達以上に寂しい思いをしている麗奈。
彼女とはなしていると、私も精神年齢低いのだろう、すっかり乙女の様な
気分になって麗奈と泣いたりわらったりしてしまう。
今日は学校が終わって麗奈が泊まりに来てくれる。

彼女のお母さんとは一回ホアンをおくって来られた時にお会いした。
清楚で物静かな方だった。
なぜか私達を全面的に信頼して下さっている。

今日は何の献立にしようかな?と考えながら家路に着く。

麗奈が来たのは夕方6時過ぎ。
寒かっただろう、白い息を弾ませながら玄関に立っている。
二人でホアンの留守録を再生し、聞く。

「さあ 入って、入って!」と暖かい居間に二人で座る。
そして、昨日電話した事を麗奈に話す。彼女も日数にしてみれば、ほんの
一週間もたってないのだけれど、以前の様にタイムリーで携帯メールの
やり取りをしていたことを考えれば、やはり一日が一ヶ月にも思えて
「全然電話もメールもくれない・・・・」と寂しさをつのらせている。

       

夕ご飯も一緒に台所に立ち、まるで仲の良い嫁、姑みたいだ。
麗奈も常日頃よくお母さんのお手伝いが出来ているとみえて
手際よく私の手伝いをしてくれる。
今日は彼女が美味しい!美味しい!と気に入ってくれた”オーストラリアンスープ”を
教えて一緒に作る事にした。
どうもこの二人は手より口の方が忙しく動いている。
なかなか料理が出来上がらない。そうこうしていると、主人の帰宅。
麗奈はすぐに居間の方へ行き「おかえりなさい!」と言う。
主人も、お帰りなさいも言わない女房より、こんな可愛い麗奈が
にこにこ!として「お帰りなさい」と言ってもらって、ご満悦の表情である。

       

   

彼女といろんな話をし、お風呂に入り、夜は更けていった。
明日パラグライダーに行く予定の主人は12時をまわると、「寝るぞー!」
と二階へ上がって行く。
それから延々私達は、ビデオを見たり、思い出話をして4時頃布団に入った。
彼女はホアンが寝ていた2階のベッドでホアンとの思い出を胸に
眠りについた。