ホアンと稲垣夫婦のホームステイ日記

                                                   愛子 記

10月9日(火曜日)『精神鍛錬??Concentrarse en algo?
今朝は残念ながら学校を休んでしまった。

昨日はAFSの行事で福山に芋掘りや稲刈り等楽しい催しものがあったが
あいにく、風邪をひいてしまって行かれなかった。
今日はすっかり回復して、学校にも充分行ける状態であったが、
昼間に充分過ぎる程寝ているので、朝起きる事が出来ない。
このところ、朝は私に全面的におんぶに抱っこ状態で、全く起きる気がなさそうだ。

これは少しホアンの精神もたるんでいるのだ!と主人。
今日はホアンの性根を入れ替えさせてやる・・・と言わんばかりに、ついに主人のしごきが始まった。

まず、マッチに火を付け、舌に”じゅん!”と当てるのである。
顔を引きつらせて見ているホアン。
「同じこの動作でも、熱い熱いとギャーギャー言いながらやるのも、
じーと静かに落ち着いてやるのも感じる熱さは同じなのだ。
だったら、男なら腹に力を入れ”オッス”の気持ちで静かにやれ!」とホアンを説得している。

   平気な顔でやれ padre aplico el fuego de la lengua      そんなあ〜 笑ってごまかすホアン  Juan disimula sonriendo

主人がやって見せて、『次はホアン、やってみろ!』と主人。
『僕ちょとトイレに・・・』等と言って逃げる格好をして見せる。こんな時も根っから身に付いた
パフォーマンスで私達を笑わせるホアンである。
何んのかんのと言いながら、時間かせぎをするホアン。

ついに心を決めたか、マッチ箱に恐る恐る手を伸ばす。”火を付けた”しかし、すぐ消すホアン。
まだ心の準備が出来ていない様だ。もう一度火を付ける。
大きく口を開け、舌をベーと出した。ああ!もたもたしていたので、火が消えてしまった。
再度、覚悟を決めて、今度こそ意を決したようだ。
ほぼ火の消えかけたマッチの火を一瞬舌に当てた。これでは当てた事にはならない。
これは自分でも不満足だったと見え、やるからには、おとうさんに認めてもらいたい!と思ったのか、
もう一度挑戦だ。こんどは2秒くらい、舌に付けていた。
主人の”うん、よかろう!”という顔色を見たとたん、ぐらっと失神する真似をして私達を笑わせるホアン。
あの愛くるしい顔で笑うホアンを見ると、どこまで本気なのか察しかねるけれども、根っから事を楽しむホアンである。

   だんだん真剣になる・・・Juan interiormente no esta muy tranqquilo    火をつけたが決心つかない・・・Juan esta indeciso

   遂に意を決する・・・No tengo miedo a nada!    呼吸が荒く火が消えた Tampoco caliente!

   本当にするの???De nuevo???    やったぞ〜!!! Jo hice!!

精神修養はこれだけに留まらない。次は腕に針を通すのである。
まず、コットンにアルコールをしみこませ、腕まくりをした主人は、しっかり腕を消毒している。
『目を皿のようにして見つめるホアン。『何をする気だろう』と食い入るように見つめている。
次に針の消毒だ。さて!腕を机の上に乗せ、針を通し始めた。
”ひゃー!!”と手を口にあてるホアン。私もビデオをとりながら、気持ち悪さが込み上げて来た。
思わず私も”ウェ〜!!”と叫ぶ。
これは端で見ているほど、本人は痛くはないんだ”と主人。
射した針は皮膚を突き抜け、筋肉を通り抜け、反対側の皮膚から先が出て来た。ぎゃー!!
串刺し状態だ!ホアンはそれこそ失神寸前状態!

   針が皮膚を破る時がちょっと痛い pinchar algo en el brazo    どうだあ〜 Ahola te haces!!

”ホアン、やれ!”と主人。しばらく沈黙・・・・・のホアン。
これは最大の決意が要った様だが、軟弱ホアンと呼ぶ主人に馬鹿にされては!と
結構見栄っ張りのホアンがトライする。
腕を出した。アルコールの染みた綿で腕を消毒する。
口をへの字ハの字に歪めながら歯を食いしばっている。
頭に花の形のついたマチ針を持った!腕を机の上に乗せ、じーと見つめている。
どこに射しこもうかと考えている。気持ちを沈めて覚悟を決めている。

射しかけて、やめた!主人と私が見つめている。ここで引いては男が捨たる!とばかりに
針を持って皮膚に近づけた。
ああ!入った。皮膚を突き抜け、筋肉を通り、向こう側に出て来た??
ところが結構深く射しているので、マチ針一杯串刺し状態だ。
マチ針の先は向こう側の皮膚を抜ける皮一枚のところで終わってしまっている。
意外に本人はケロっとしている。
『そうだろ!はたで見る程、やっている本人は痛くは無いんだよ!』と言ってやる主人。
『よし!これ明日学校で!』とまた笑わせてくれる。

   ここへ針を刺すの?Juan hace gestos muecas de dolor    わらってもダメ!!!やれ!!No es cosa de risa!!

   俺も男だ!! desinfectar!    むっ!!!!aguantar el dolor!

   針の長さが足りない!!Ahora es cuando debemos aguantarnos!    やってみりゃあ〜たいしたことない!No es gran cosa!!

痛みが無いという事でいえば、女の人は男の人のように痛みは感じないように
出来ているんだ。とホアンは女の人はお産という大役をする事を話す。
そして昔の侍の”ハラキリ!(HARAKIRI”に話は及び、日本ひいきのホアンは、ハラキリ(HARAKIRI)の作法をやってみせる。
主人が追いかけて、昔の”剛の者”はハラキリは腹だけ切るんじゃ−ないんだ。横に刀を入れたら
今度は胸のところから下に向って縦に十字に刀を入れ、最後には内臓を取って投げたというぞ!!
と話して聞かせる。
この事は私も初めて聞いて、考えただけでも、”ぞ〜”として鳥肌がたってしまった。

ホアンはまた皮膚の針を射したところをじーと見つめている。
『その針を射した後は一生残るぞ、タットゥー(刺青)と同じだ』と主人。
「僕はこれを見て思い出すよ。あー!これあの時日本でおとさんと同じ!!」と
目を輝かせるホアンであった。

これで軟弱ホアンは少し解消出来るのか〜???
でも、本当にホアンに主人が伝えたかった事は、
男はいついかなる時でもパニックに陥ってはならない、冷静に対処せよ!
『心頭滅却すれば火もまた涼し』武士(もののふ)の心を伝えたかった様だ。
過日、肉を詰まらせて息が出来なくなった時も、パニックになって走り回らなかったので
かろうじて細く息の出来る状況を作り出した事を説明したら、ホアンは大納得であった。

ホアンもまだほんとに小さい頃、喉に食べ物を詰まらせて、皿を床に叩きつけてお姉さんに知らせ
おとうさんが駆けつけて、ホアンの喉に指を突っ込んで、助けてもらったらしい。

なにかにつけて思う事だけれども、ホアンも主人も何だか似通ったところが多いのは
何かの因縁だろうか・・・・。
血液型0型、子供の頃のチョロQな所、宗教に対する考え、お金に対する執着の無さ、
ぼろ雑巾の様によく漬かった白菜漬けが大好きなところ!パラグライダー中毒患者、
おまけに、女の子にシャイなところ???
ほんとに良く似ている二人である。
主人もホアンをみる時、自分の小型を見るような気がするという。

ホアンも針を刺した跡を見る度に今日の事を思い出してくれるだろう・・・・。

10月10日(水曜日)
光陰矢のごとし!10月に入ってあれやこれやバタバタしている間にホッと気が付けば
もう10日も過ぎてしまっている。
こうしてホアンの帰る2月もすぐ来てしまうんだろうな〜・・・・。

ホアンは、今の日本の気候はとっても気に入っていて、もっと寒いが好き!!なんぞと
言ってはいるが、ちょっと寒ければ、私達も想像出来ない事をする。
ふかふかのジャケットを着こんで震えるのだ。彼は少し極端過ぎる!

朝は自転車で汗をかきかき学校へ行くので、学校の制服のジャケットは少し暑いと見える。
この間まで、汗が出るので、自転車で学校へ着くまではTシャツを着て行き、
学校へ着いたら制服の白いワイシャツに着替えていた。
ところが校門の処で先生に注意されてしまったらしい。他の生徒はみんな白のワイシャツとネクタイ
を着て来ているんだから、ホアンもそうしなさい!と。t
この指導に少し口を尖がらすホアンである。

ホアンは素肌にすぐワイシャツを着るので、汗が出ると気持ち悪いのだろう。
「そしたら、ワイシャツの下にポッキリのT−シャツを着て行きなさい。学校へ着いたら
そのT−シャツを脱げばいいんじゃない?」と言っておいた。

         

今日は私もリズムの稽古日だ。ホアンはどうせ、いつ戻って来るか分からない。
「友達のお母さんとと夕ご飯を一緒にと誘われた」とも言っていたので、帰ってくるまで
わからない最近のホアンである。
学校が終わって真っ直ぐ帰って来る事はさらさら無い。エールエール館に行ったり
インターネットカフェに行ったりして、9時10時になる事が多い。

ホアンの遅くなるのにも慣らされてしまったので、もう私達もホアンを待つ事なく
夕ご飯を食べる事にした。先日等は「今から帰る、今広島駅」と電話してきたのが
9時半頃。この日はK−1の稽古日だった。「K−1は行かなかったの?」と聞くと
「いったない!」とホアン。
30分も待てば帰って来る事は分かっていたが、なんだか待ってやる気持ちに
なれず、さっさと食べてしまった。

頭のいい子の特徴であろうか、ひとつの事をやってしまうと、すべてわかった!と
勘違いするのか、飽きてしまう傾向にある。パラグライダーもしかり!である。
同じ事を繰り返し繰り返し練習する事に飽きてしまって、「面白くない!」と
言ってのけるホアンである。
それでも、普通の人は3ヶ月から半年かかって同じ事を何度も練習してはじめて
ホアンの望む神の倉の高いエリアから飛べるのであるが、ホアンはまだ一ヶ月も
やってはいない。
やはりまかり間違えば、命の危険を伴うスポーツであるので、繰り返しの練習は
なによりも大切な事なのであるが・・・・わかってくれない!

夜リズムの稽古を終えて帰ってみると、ホアンはすでにベッドの中。
このところ少し朝起きるタイミングがずれて、起きられないホアン。
今日は早く寝て時間調整する積りなのだろう。

明日の朝はすっきりと目覚めてくれるのだろうか??