スーちゃんと稲垣夫婦のホームステイ日記

                                              愛子 記

2008年 11月
11月1日(土曜日) スーちゃん岩国へ。
いい子のスーちゃんに旅をさせた。
いつも自分の行動範囲を拡げようとしないスーちゃんに”りんご狩り”というにんじんをぶら下げて、旅に出るよう命令した。
この提案を口にした時のスーちゃんの戸惑いの顔は察するに余りあった。けれども自分が今一番やってみたい「りんご狩り」に
連れて行ってあげるから!という言葉に勇気を奮い起こして、一人で岩国に行く!!と決意したようだ。
所属の支部外の場所に行くという事で、AFSさんの許可が必要との事で、旅行願いなるものを提出。
了解も得たので大手を振って行ってきなさい!とはっぱをかける。

昨夜岩国錦帯橋のインフォメーションなどで、下調べをさせる。嬉しいことにヴォランティアの方が無料で案内して下さるらしい。
一人でも団体でもOKとの事で、着いてからお願いしてみなさいと伝える。
いつものように朝のテレビドラマを見て、元気良く(?)出かけて行った。
やれやれ、ようやくその気になって行ってくれたね〜・・・と主人と顔を見合わせにや笑い。
どんな珍道中になることやら・・・・である。

さて明日は留学生会館祭りでスーちゃんはスピーチ大会に出る。「電車の中で暗記しながら行きなさいよ」と伝えておいた。
私は明日のスピーチ大会に参加する学習者の練習があるので、午後から留学生会館に向かう。
昨年までは私達IVC独自のスピーチ大会をやっていたけれど、今年はこの留学生会館主催のスピーチ大会に参画する。
一人でもIVCから好成績の学習者さんが出るとうれしいのだが・・・。
練習は午後一時からスピーチ会場のホールで、一時間ほど行われた。他の場所ではいろいろの催しものの準備やパネル展示や
各国の料理が食べられる屋台など、沢山の学生などが忙しく準備をしていた。
スピーチの練習も3時前には終了し、解散となり帰宅する。
さて、スーちゃんは何時頃に帰るだろうなぁ〜・・・。

 ちゃんと錦帯橋まで来ましたヨ。 こんな橋初めてです!! 

 親切なヴォランティアのおじさんでした。 公園内にある佐々木小次郎像の作者 岩国城だよ!!

夕ご飯の準備をしながらまっていると、「ただいまぁ〜!!」と元気な声で戻ってきた。6時頃であった。
どうやら何のトラブルも無く、無事ご帰還のようである。
「楽しかったよー!!きれいだった!」と大きな目をくりくりさせて、今日の一日を話してくれる。
スーちゃんは前のホストファミリーの時、広島駅からの下り線を利用していたので、その点では不安は無かったようだ。
電車では錦帯橋への案内などもしてくれるので、迷ううことなく錦帯橋行きのバスにも乗り、現地に到着。
橋の入り口で案内しているヴォランティアの”おじさん”に案内して頂いたとの事だった。
「日本はすごいねぇ〜!!!」と驚きの声をあげていた。
公園を散策、白蛇も見、ロープウェイに乗り岩国城にもあがり、噴水に喜び、結局お昼も食べず3時間も案内してもらったそうだ。
行く前に瀬戸内高校の日本史の先生に岩国に行く事を伝えると、「是非行って来なさい」と言ってもらい、
お城についての予備知識も頂いたようで、白いお城、黒いお城の意味をこう話してくれた。
白いお城は実際にその地の領主が住んでいたお城。そして黒いお城は敵が近寄ってくるのを見張る為、
夜中など黒い方がのぞき窓から見張りやすいから・・・との事で、これは私達も知らない事であった。
インターネットで調べると、徳川家康の江戸城をモデルにして建てたお城は白!で、
豊臣秀吉の建てた大阪城をモデルにしたお城は黒いお城だと記してあった。
綺麗な三つのアーチ型の錦帯橋もスーちゃんの心を魅了したようであった。
「なんでもなかったよ!!」と出かける前の不安な顔はどこへやらのスーちゃんであった。
11月2日(日曜日)留学生会館スピーチ大会で優勝!! 
今日は留学生会館祭りである。
朝9時半に留学生会館に私達スタッフおよびスピーチ参加者は集合という事なので、日曜日とはいえ朝寝坊は出来ない。
それにスーちゃんはスリランカの民族衣装を着てスピーチ大会に臨むことになっているので大変だ。
最近では日本でも着物を着て帯を結べる女性は少ないのだが、スーちゃんの着る民族衣装も、一枚の布を上手に身体に巻いて
着ていくらしいのだが、スーちゃんにはそれが出来ないので、お母さんが簡易民族衣装をあつらえてスーちゃんにもたされたようだ。
上にベストのような衣装、下はスカートそして肩に長いサリーをかけるようになったものだ。
ただ、最近メキメキ!体重が増えてきて、ウエストのホックが止まらなくなってきた。
上下は間があいていて肌がみえるのだが、何と太ってしまったスーちゃんはそこから肉!がはみ出す始末。
ホックも私が手伝ってふうふう言いながら止めなければならない。
恥ずかしいよ〜!!といいながらも大笑いのスーちゃんについ私達も腹を抱えて大笑いである。
くしゃみでもしようものならホックがポ〜ン!!と外れて飛んでいってしまいそうだ。
何とかお腹を細めてスカートを履いたスーちゃんを連れて留学生会館に向かう。

三々五々スタッフ、スピーチ参加者さんも集まって来る。
まだホールが明けてもらえないので、廊下でそれぞれ先生方がひとりづつ付いてスピーチの最後の練習に余念が無い。
スーちゃんは皆さんにオサリー(スリランカの民族衣装はこう呼ぶらしい)を褒めてもらっている。
数着持って来た中のお気に入りの色柄である。
お腹のはみ出た筋肉はうまい具合にスカーフのようなオサリーの布で隠している。
やはり民族衣装というものは美しいものだなぁと思う。
今日スピーチに参加するインドのママタさんも、濃いブルーのサリーを着て来られている。とても美しい。
着物というものは布自体が刺繍や染めなどで美しいので、時計すらもなるべくしないけれど、インド、スリランカの民族衣装は
ネックレス、イヤリング、指輪、腕にとおされたリング等、金や銀、カラフルな色がその民族衣装を引き立てている。
ママタさんも髪、腕、耳、額、ネックに素敵な貴金属が光ってとても美しい。
ホールではスピーチの準備が着々と進められ、参加者も壇上の近くに座り緊張の面持ちである。
観客、聴取者もぞくぞくとホールに入って来る。

10時過ぎ留学生会館のスタッフの方の開始の案内が場内に響き、スピーチ大会の始まりである。
今日はベトナム、ラオス、インド、中国、ルーマニア、スリランカから合計15名が参加している。
テーマは自由なので、どんなスピーチが飛び出すか楽しみである。
私は一応ビデオ撮りを担当しているので、正面真ん中に位置取りビデオを構えた。つぎつぎ壇上に上がり、スピーチが進んでいく。
皆さん落ち着いて、びっくりするほど流暢な日本語で聴取者に語りかけている。
スーちゃんは大丈夫だろうか?どきどきしてるだろうなぁ・・・。
スーちゃんは一週間後にも、他のスピーチ大会に参加予定である。
スピーチの内容も重なってはまずいので今日の為に一生懸命考えて練習を重ねてきた。
とにかく、ゆっくり、はっきり、にっこり!だからね!!と伝えておいた。
一人が4分前後のスピーチで、11時半過ぎ全ての参加者のスピーチが終了した。後は結果待ちだけである・・・。

 若干5才のダルシャン君。物怖じせずに堂々とスピーチ! 息子ダルシャンに負けじと母親ママタさんも・・・・。 おしんの国日本にやってくるのが夢でした!!

ママタさんのひとり息子であるダルシャン君もこのスピーチ大会に参加し、聴取者の微笑みを誘っていた。
まだ5歳で幼稚園に通っているが、おとうさんに読んでもらった宇宙の本に興味を持ち、将来宇宙旅行に行きます!と
夢をユーモアたっぷりにスピーチし、特別賞に輝いた。
そして、何と何と最優秀賞に輝いたのは、スーちゃんであった。
スーちゃんのスピーチでなんといっても皆さんの興味を引き付けたのは、彼女が5歳の時見たドラマ「おしん」で、
着物に興味を抱き、着物を着る為日本へ行くんだ!という夢を持ち、その夢が18年かけて実現したといういう事。
今、日本のお米が大好きで、最初は食べられなかったご飯が今では大好きになり、体重が5Kgも増えてしまった!!
という自分自身の体験を語ったスピーチに皆さんの笑いを誘ったからであろう。

 「特別賞」の表彰されるダルシャン君。 ママのママタさんは2位に輝きました。 スリランカ民族衣装「オサリー」で参加。見事優勝しました。(とても18歳には見えません。)

表彰式を終わって朝日新聞の女性記者さんにインタビューを受けていた。明日の朝刊に載るようだ。
主人も出かける用事があり、その前にこの会場にスーちゃんのスピーチに間に合うように来ていた。
私達にとってもこの上ない喜びである。
インドのママタさんもインドの子供達が学校にも行かれず、教育を受けられない現状を訴えたスピーチで2等に輝き、
親子ともども嬉しい賞に輝き、パパのシュワクマールさんもニコニコと嬉しそうであった。
スピーチが終了し、オサリーを脱ぎ、今度は隣の部屋でやっている着物の着付けをしてもらいご満悦であった。
5Kgも太ったスーちゃんであったが、世界の料理屋台でも体重を気にするどころか、スリランカのお国料理を見つけると、
久しぶりのカレーに舌鼓をうっていた。
IVCの先生方からも「スーちゃん、パーフェクト!!よ」と賞賛の声を頂いていた。
スーちゃん、おめでとう。お疲れ様!!!
11月3日(月曜日) りんご狩りに 
先日岩国への一人旅を勇気を奮い起こして決行したスーちゃん、今日はそのご褒美の”りんご狩り”である。
スリランカには勿論りんごは無いそうだが、”りんご”という名前はたいていの人は知っているそうだ。
でも誰もリンゴがどんな木に、どのように実がついているのか、またどんな花が咲くのか?などは知る人は少ないという。
スーちゃん自身も、想像つかないようである。なので、今日はとても楽しみにしている様子だ。

朝、9時過ぎ自宅を出発。インターネットで調べた三次方面に向う。
途中、湧永製薬が所有している甲田町の湧永庭園に寄る。

 おかあさんも童心に返って・・・。 でっかいスーちゃんとちっこい私。 お父さんは堂々と!!

この庭園を過ぎると以前パラグライダーで汗水流して練習した”荒槙牧場”がある。
いつもだれかがパラグライダーの練習をしているので、主人はどうしてもそちらに寄りたがる。
ここはオートバイライダーや四駆車の練習場でもある。
今日も沢山のライダー達が参集していた。丘の下の方で今日もパラグライダーの練習をしているのが見える。
寄って行くと、地森さんがモーターパラグライダーの指導をしておられた。
ただ、風が強いので実際に飛ぶ事は無さそうだ。一時話をし、三次に向けて走る。

私達の訪れた「平田観光農園」では、リンゴ食べ放題で一人700円也。
リンゴの木が700本あまり有るそうで、小さな包丁と剥いた皮入れの為のポリバケツを渡され、
園内に入って行くと真っ赤に熟れたリンゴ達が私達を迎えてくれた。
スーちゃんはそれを見るや、大歓声をあげたり、あまりのきれいさにため息をついたりと忙しい。
初めて見る景色にすっかり心を奪われたようで、写真を撮りまくっている。
真紅のリンゴ、黄色なリンゴがたわわに実をつけている。
食べ放題!と言ってもそんなに食べられるものではない。ささやかな抵抗で、
昼ごはん抜きで来たけれど、一体何個食べれるだろうか?
種類が「つがる、ふじ、王林、陽光」等と名前が記してあり、とにかく全部味わってみよう!と主人。
一個取り、皮を剥き4っつに切り分ける。ジューシーで糖度が高いので指が蜜でねちゃねちゃしてくる。
口に入れるとシャリシャリと歯ざわりが良い。
王林も甘くて美味しかった。陽光も真っ赤で可愛い色だ。
歩き回りながらもぎ取って食べて行くと、何個も食べないうちにお腹がいっぱいになってきた。
スーちゃんも、「もう入らな〜い!!」と専ら写真撮りに専念。

 可愛いリンゴに”チュッ!” スリランカにはこんな可愛いリンゴ無いよ〜!! 姫リンゴ!かわいいなぁ〜・・・・。

リンゴ狩りを堪能したので、次に私達は三次ワイナリーを訪れた。いつ行っても沢山の観光客であふれかえっている。
夕方の時間だったので、ワインの製造工程はブラインドが降ろされ、見ることが出来なかった。
スーちゃんはワインは飲まないし、私も全然アルコール系はダメなので、ケーキに使う為干しぶどうを買って帰る。
11月9日(日曜日) 世界平和弁論大会で優勝!! 
今日は財団法人ヒロシマ・ピース・センター主催の世界平和弁論大会である。
先週の留学生会館のスピーチが終わったと思ったら、次はこの平和スピーチという事で、スーちゃんも忙しい事だ。
でもやるからには、好成績を納めたいと、この一週間一生懸命スピーチを暗記し、練習してきた。
スピーチ大会では、まず暗記する事が第一の条件だ。
覚えることにかけては自信があるスーちゃんなので、ほぼ内容は覚えてしまっている。
でも「は」とか「が」などの助詞の間違いが多い。一旦覚えてしまうと、特殊な覚え方をするスーちゃんは変更がきかない。
「少々内容に支障をきたさない助詞はもういいから」と無理強いしない。
ただ「は」が「が」でいってしまうと強調に欠ける場合は、無理やり直すようにさせた。
あとはもうスーちゃんが覚えたように言えばいい!と言っておく。

9:30までにスピーチ会場である中区の広島工業大学広島校舎に行かなければならない。
出掛けに、スリランカではこんな挨拶をすると言って、お父さんの足元に膝まづき、床に手をついて頭を置く。
そして主人はスーちゃんの頭に手を置く。(なでるようにする) こんどは同じことを私にもする。
子供達が試験を受けに行くとか、何か大きなことをする場合、スリランカでは両親にこのような儀式をして出かけるという。
これで、なんとなく気分も落ち着いて、さぁ出かけよう!!

9時過ぎには到着。途中来年アメリカに留学するという、安芸府中高校に通っている彩加さんをピックアップする。
着くと、10時までまだ時間があるので、スーちゃんたちは気分を落ち着ける為、別室でスピーチの練習をする。
三々五々スピーチの参加者や、関係者が集まり始める。
今日は瀬戸内高校の先生方も8名位来てくださっている。
壇上正面あたりにずらりと席を取りスーちゃんのスピーチを見守ってくださる。

今日のスピーチ出場者は12名。
中国、ハンガリー、アメリカ、カザフスタン、モンゴル、台湾、ベトナム、スーちゃんのスリランカからの参加者だ。
スーちゃん達高校生や大学生も参加している。
主催のヒロシマ・ピース・センター作成のパンフレットを見ると、過去の最優秀賞の受賞者が記されている。
その中に第12回2001年に我家の留学生であったホアンの名前も記されている。あの時もこの会場へ来た。
勿論主人は絶対に見には来ない。
主人のスタンスで、戦いは自分ひとりで腹に力を入れ、オッス!で戦って来い!という主義なのだ。
スーちゃんはおとうさんに見に来て欲しいものだから、泣く様な声で哀願していたが、
主人はガンとしてスピーチに行くとは言わなかった。

さて、10時丁度、スピーチは始まり、会場入り口あたりにスピーチをするスーちゃんたちは順番に座っている。
スーちゃんは9番目なので、気分的には少し気持ちは楽かも・・・・。
同じ瀬戸内高校から参加したアメリカのショナサン・タン君は4番目に終わった。
そして、スーちゃんのライバル、ベトナムのチャン(女学院高校)は11番だ。
女学院高校は毎年良い成績を納めていて、彼女を指導されている、須藤先生も会場からチャンのスピーチを見守っておられた。
パッちゃんの時お会いして以来だ。

今日の出場者は12名。
いよいよスーちゃんの番となり、司会の方から紹介があると、ゆっくりと壇上に上がっていスーちゃん。
落ち着いているように見える。
先日の留学生会館でのスピーチは民族衣装で華やかなスーちゃんであったが、
今日は平和弁論大会なので、瀬戸内高校の制服を着て、まじめ顔のスーちゃんだ。
今、スリランカでは、人口の70%を占めるスーちゃん達シンハラ人と、
残るタミール人の間で紛争が起きており、北の方で内戦状態にある。
学校や、バスなどに爆弾がしかけられ沢山の学生や、幼い命が狙われている事をスピーチで切々と訴えた。
ホアンの時と同じように、スピーチに一番大切な、「起承転結」を主人が指導。あとはすべて本人が文章を書く。
文章のうまいスーちゃんなので、助詞の違いや、小さなところを少しつついただけだった。

12名の出場者のスピーチが終わり、長年平和のために尽力された方に、贈られる「谷本清平和賞」の受賞者の授与式がある。
今年は、20回目という事で、広島原爆資料館館長として活躍された高橋昭博氏に贈られた。
そして、引き続きスピーチ大会の優秀者の発表となった。
まず第3位からの発表で、ベトナムからのチャンであった。彼女は女学院高校からで、スーちゃんの一番のライバルであった。
チャンは一番になるかもしれない・・・そんな不安で夜眠れなかったくらいだ。
2位はカザフスタンで、山陽女子高校の留学生であった。いよいよ一位の発表。
「一位!《つたえよう笑顔と心》スリランカ、スガンディ バラスーリャさん!!とアナウンスされた。
皆さんとても素晴しいスピーチだったので、あれでも他の留学生さんの名前が読み上げられるかも・・・と
心の中で不安と期待が交錯していた。
スーちゃんの名前が呼ばれたとたん、やっぱり!よかった!やったー!!と嬉しさがこみ上げてきて、歓喜の声を上げる。
前列中心あたりに陣取った瀬戸内高校の先生方からも、喜びの声がわきあがっていた。
この日のために毎日、毎日指導された先生方、この日の本番まで聞かずに楽しみにして来られた校長先生など・・・・
皆さんに見守られての最優秀賞であった。
優勝者への表彰状授与などが終わり、みなさんの所へ駈け寄ってきたスーちゃんは感極まって目が潤んでいた。
会場の中にはスーちゃんが初めて日本に来た時のホストファミリーであった繁本さん一家の姿も有った。
お父さん、お母さん、えりこちゃん、秀輔君の姿もあった。スーちゃんが手紙を出してこのスピーチのことを知らせていたようだ。
一ヶ月とはいえ、とてもよくして頂いた一家に、半年ぶりに会い、スーちゃんの大きな目から大粒の涙があふれていた。
ただ、残念なことに、繁本さんは時間の都合で、スピーチの結果は聞かれず会場をあとにされたようだが、
LPの方がすぐに連絡を入れられたとの事。
スーちゃんはあちらこちらで「おめでとう!!良かったね!素晴しかったよ!!」と祝福を受けている。
そんなスーちゃんを捕まえて、「スーちゃん、おとうさん!おとうさん!連絡!!」と携帯を渡すと、
会場の隅っこの方へ走り寄って行き「おとうさ〜ん!!優勝したよ!!!!」と大声で知らせている。
やれやれ良かったとと私も肩をなでおろす。

 がんばった出場者の皆さん。 素晴しいスピーチでした!! 瀬戸内高校の先生やLPさんと。

別な会場で立食パーティがあり、バイキング料理が並べられていた。
皆さん歓談しながら頂き、今日のスピーチコンテストの行事は終了した。
朝一緒に来たあやかちゃんと帰途に着く。帰る途中、ケーキ屋さんに寄り、スーちゃんにお祝いのケーキを買った。
(スーちゃんには分からないように・・・)
家では主人がスーちゃんが飛び込んでくるのを今や遅し待ち構えていた。
家に入るや否や「おとうさ〜んんん!!!」とハグハグだ。
主人も、よくやった!とばかり、スーちゃんの功績を称えてやっていた。
長い一日がようやく終わった。
今日のスーちゃんのスピーチは今まで聞いた中で一番の出来だったと私は感じた。
そのことは瀬戸内高校の先生方も同感だったようで、そんな言葉をかけられたとスーちゃんに後から聞いた。
会場に向う車の中で、「スーちゃん、まず壇上に上がったら、まっすぐ一番後ろの席の上の方を見て、
一息ついて、それからゆっくり始めるのよ。
まず第一声の「和を持って貴しとなし、さかふる事なきを旨となす」この言葉は皆さんの目線をスーちゃんに
集中させる一番大事なフレーズだからね!と言っておいた。
どうしよう!どうしよう!!と不安がるスーちゃんに言ってやる言葉は別に無かったので、適当にそんな言葉をかけておいた。
あとでスーちゃんから「おかあさんが言ったとおりにやった」と嬉しいことを言ってくれた。
いずれにしても優勝できて良かった!!!。
夜遅く、スリランカの両親に嬉しそうに連絡する、スーちゃんであった。

 スリランカへの一番のみやげとなりました。 「お父さん、頑張ったよ〜!!!!」 「よし、よし!!」 スーちゃんへのおめでとうケーキ
11月15日(土曜日)瀬戸内高校文化祭 
昨日今日とスーちゃんの通う瀬戸内高校の文化祭だ。
昨日は学校内だけでクラス毎に出し物があり、ギター演奏で歌ったり、クラスで発表があったりと
いろいろな出し物で楽しんだようだが、今日は学校外からも行って見ることが出来る。
今日スーちゃんはスリランカの民族舞踊を踊る事になっているようで、私達に来て来て!と言ってくれている。
特にスピーチコンテストに行かなかったお父さんに「ぜったいお父さん来てね!!」と懇願していた。
いつもの時間に出かけて行ったので、10時から学校に入れるらしいので、主人と一緒に出かけてみる事に。
スーちゃんの思い出の記録にとビデオ撮りが主な目的だ。10時過ぎ頃スーちゃんの出番なので、体育館に行ってみる。
体育館には椅子が沢山並べられて学生達がバンド演奏など体育館での催し物を見るため集まってきている。
舞台の上にはドラム、楽器などが並んでいてバンド演奏の為のようなので、
スーちゃんは下の私達の座っている正面あたりで踊るらしい。
音楽の先生の紹介があり、まず一番にスーちゃんの踊りだ。
スリランカの音楽が流れると、青い民族衣装に身を包んだスーちゃんが出てきた。
左端のほうから次第に中央に踊りながら進んで来る。
音楽はまことにシンプルで、まるでブリキのバケツをたたいているような音楽だ。
その賑やかな音と、女の人の少し、物悲しげな唄が入っている。スーちゃんに聞くと、孔雀の踊りだそうで、
羽を広げたり、歩いたりぶるぶるっと身体を震わせたりとスーちゃんは孔雀になりきって踊っている。
5分くらいの踊りだった。

それが終わると、賑やかなバンド演奏が始まった。がんばって二つのグループの唄と演奏を聴いた。
エレキギターが耳を劈くようだ。
若者向きの音楽なので、なんだか場違いなところに来てしまった感覚になり、早々に引き上げる。
スーちゃんのクラスはうどんコーナーを担当している。スーちゃんも小さな暖簾を持って呼び込みを担当していた。
お昼には少し早かったが、スーちゃん達に協力してうどん2杯を注文する。
会計担当は先日スーちゃんの誕生日に我家に来てくれて丸ちゃんだった。
「こんにちは〜!」とにこにこと笑顔を返してくれる。いろいろな屋台を一回りして帰宅する。

 高校生らしい可愛い案内板ね。 
11月16日(日曜日) 繁本さん一家来訪
今日はスーちゃんが日本に来た時の最初のホストファミリーだった繁本さん一家が我家を訪問される。
先日の平和スピーチ大会の時私は初めて繁本さんにお会いした。その時「是非一度お宅に伺わせて下さい」と言われた。
久しぶりにスーちゃんに会うのを楽しみにしておられるようだ。
先日のスピーチコンテストは、一位になったのを見ずして帰ってしまわれたのだが、一位だった事を聞き大変喜ばれた。
繁本さんは10時過ぎ我が家に来られた。今日は主人が手打ちうどんで接待することにした。昨夜から粉を寝かせておいた。
少し熱っぽかったスーちゃんだったが、繁本さんが来られるので元気が出たようで、「私はスリランカカレーを作る」と言って
今朝の2時頃までかかってつくりあげたのだった。
繁本のお父さん、お母さん、次女のかおりちゃん、長男の秀輔君の4人で来られた。
3月に日本に来た時、不安で何も分からなかったスーちゃんに優しく、暖かく接して下さった
繁本さん一家の事はスーちゃんから度々聞いていた。お父さんと自転車でずっと瀬戸内高校へ通った事。
そして下校時間にはお父さんがちゃんと迎えに来ておられて、また自転車で一緒に帰った事。
そんな事を聞くにつけ、優しいお父様にお人柄や、繁本さん一家の様子がうかがいしれて、私達も是非お会いしたいと思っていた。
楽しく時間を過ごし、夕方皆さん我家をあとにされた。

 「どう?スリランカカレー美味しいでしょ?」 楽しかったねー。みんなでハイポーズ!
11月17日(月曜日) 瀬戸内高校お休み
今日は先日の文化祭の代わりの休日だ。
午前中私はお稽古事で出かけるので、スーちゃんはお父さんと近くの森林公園に散歩だ。
近くに広島市の森林公園と、県の緑化公園がある。今まさに紅葉真っ盛り。スーちゃんは行きたい!行きたい!と言う。
それではと、午前中は散歩がてら主人が近い方の森林公園に連れて行くことに。
そして午後から一緒に車で10分ほどの県緑化公園に行く事にした。
昼前に帰宅してみると、まだ二人は戻っていない。お昼ごはんを支度して待っていると、「ただいまぁ〜!!」と帰宅。
昼食を食べ、こんどは県の緑化公園に行く。もみじの色は木は何と言えない赤の色で、あたりの緑、黄色と美しく調和している。
スーちゃんはその美しさに息をのむように大きなため息をついている。
緑化公園には「10月さくら」があり、今の季節にさくらが咲いている。春の桜ほどきれいではないが、ほんのりとした桜色が美しい。
3人でぶらぶらと散策する。
スリランカではこのような美しい風景は見ることが出来ないので、さぞかし両親や、お友達に見せてあげたいことだろう。

 「うわぁ〜すごっいきれい!!!」 「私は蝶の精よ!」 「この季節に桜がさいてるなんて!!!」

 「おかあさん!一緒に撮ろっ!!」  「おとうさんともね!!!」  「スーちゃんがおかあさんの手に乗っちゃった!!」
11月22日(土曜日) 
昨日から主人は小笠原諸島へぶらりひとり旅に出た。今月末に大学の同窓会が箱根である為
それに合わせて一週間前から上京し、小笠原諸島に渡るという。
とにかく旅が好きな人なのだ。小笠原諸島、父島への便は週に一便しかないそうだ。
それが22日の竹芝港から出るので、東京で一泊し翌朝父島行きに乗船する。丸一日の船旅らしい。全く変わった人だ。
朝スーちゃんを高校まで送り、その足で新幹線口まで主人を送る。
リュックひとつ背負い、気ままな一人旅に、嬉しくてたまらないと主人の後ろ姿が言っているようだった。
さて、残された私達。こちらはこちらで気ままに過ごしてやろう!と胸わくわく踊る。
今日は留学生会館に行く日だ。スーちゃんと12時過ぎに我家を出る。先日の平和スピーチ以来久しぶりの留学生会館なので
IVCの先生方もスーちゃんにお祝いの言葉を言って下さる。
先生方に主人がビデオダビングしたスーちゃんのスピーチコンテストのDVDをお渡しする。
授業の始まる2時まで少し時間が有るので、ビッグカメラの露天駐車場に車を入れ替えに行く。(露天ならば無料なので・・・・)
幸いなことに待つことなくすぐに駐車する事が出来た。
留学生会館に戻り、授業が始まる。今日はロビーでの授業だ。入門、初級、中級と各テーブルに分かれて授業が始まる。
スーちゃん達中級は、佐藤先生が30分早く始められる。12月にある日本語能力試験が近いので、皆さん一生懸命である。
授業の後私達はミーティングなので、スーちゃんはフロアーで一人で勉強しながら私の終わるのを待ってくれている。
6時前にミーティングが終了する。今日はスペイン語が無くすぐにスーちゃんと一緒に帰ることが出来る。

ビックカメラの駐車場に行き、キーレスキーでドアを開けようとするが、全然効かない。
「アレッ!!この車私のだよなぁ〜。どうして開かないの??」なんどやってもドアが開いてくれない。
仕方なくキーを差し込んで開ける。運転席に座りエンジンをかけようとしたが、かからない。どうしたんだ??何があったの?? 
私の車が出るのだと思って、車を入れようと、ご夫婦が待っておられる。
どうやらバッテリーがあがってしまったらしい。3階から下に車を降ろす時、ライトを点け、消したと思っていたが、スモールランプが
点いていて、半日近く駐車していた為バッテリーがあがったのだった。

これでは当分どうすることも出来ない。仕方無く待っているご夫婦に「すみません、バッテリーがあがってしまったんです」と言うと、
気の毒そうに「悪かったね〜・・・私達チャージする道具持ってないから、ビッグカメラに言ってごらん」と言って下さる。
どうしていいか分からない私は、兎に角ビッグカメラに走り込んだ。しかし、ここにもそんな道具は無いと言われてしまった。
仕方なく、スーちゃんを車の中に残し、近くのガソリンスタンドを捜して走った。どこまで行っても見当たらず、こうなったらと
大州の大野石油までタクシーで行くことに決めた。
このガソリンスタンドは会社で使っていたところなので、所長さんも知っている。事情を話すと、
所長さんはすぐに私を軽トラックに乗せ、ビッグカメラに走ってくださった。
ただ、後方駐車していないのでチャージの為のコードが、届かないかもしれないなぁ〜という心配があった。
もし私の車の隣が空いていればいいのだが・・・・と願いながら。
その願いもむなしく、前方駐車してしまっているし、横には別の車も駐車しているので、ボンネットを開けてもチャージのコードが届かない。
所長さんはどうされるのかなぁーと立って見ている時だった、一台の大きな箱型の車が入って来た。
横には「生活救援車」と書いてある。この車は露天駐車場が空くのを入り口あたりで待っていた。
するとその後ろにまた一台車が入って来た。そして生活救援車に向ってクラクションをけたたましく鳴らした。
駐車場が空かない為前に進めないのでそのマイクロバス車は動かない。
すると後ろの車の運転手が車から降りて、「何でそこに留まるんや〜!!!」と運転手に向って怒鳴った。
(そんな事言っても、車が出るのを待ってるのになぁ〜・・・と私は思ったが。)
「駐車したいので車が出るのを待っているんです」と答える「生活救援車」の運転手さん。
文句を言った男性はぶつぶつ言いながら、バックし屋上駐車場へ向けて走り去って行った。
そんな一部始終を目を白黒させながら見ていた私とスーちゃん。
「生活救援車」の運転手のお兄さんは、今度は私に「どうしたんですか?」と聞いてこられ、
「バッテリーがあがってしまったんです・・・」と答える。
スタスタと自分の車に行き、携帯用のバッテリーチャージの機会を持って来て、さっさと私のボンネットを開け、チャージして下さった。
大野石油の所長さんも、どうしてこの人が現れたのかなど、考える暇も無く、アテンザのアクセルを踏み込み、
見事アテンザはブルンブルンと息を吹き返した。
車の中でその成り行きを見ていたスーちゃん、どうして私が二人の人をバッテリーチャージの為に
連れてきたんだろう??と不思議に思ったそうだ。
私自身も丁度「生活救援車」という車のお兄さんに助けていただくことになろうとは夢にも思わず。まさに天の助けだと感じた。
大野石油の所長さんも、持参したコードが短いものだったため、チャージ出来なかったので、
こっそり私に「お代はいいですよー」と言って下さった。
11月23日(日曜日)
主人の居ない我家は、スーちゃんと二人でのんびりした日曜の朝だ。
今日はスーちゃんに手伝ってもらい漬物を漬けようと思っている。我家では毎年100株もの白菜を漬け込む。
主人は白菜付けでないと食べないのだ。近くの農家のおばあちゃんが今年も白菜を持ってきてくださった。良く巻いた立派な白菜だ。
昨日半分に切って少し日に当てたので、しんなりしている。
大きな樽4個にお塩、白菜と交互に重ねて行き粗漬けをする。スーちゃんは沢山の白菜に目を白黒させている。
庭先に干した白菜を手に抱えられるだけ抱えて裏に運んでくれる。スーちゃんが手伝ってくれたので30分あまりで作業終了。
午後からは、久しぶりに母のところへ行って見ることにした。
私が目の前に居ても娘だとは思っていない。客人だと思い、丁寧な言葉で挨拶してくれる。
この事にも最初はとまどいもあったが、もう慣れてしまった。淡々と生きている母の様子を見て安心するだけである。
スーちゃんと3人で持っていった紙風船をポンポンと打ってひと時遊ぶ。綾取りも持っていったが、あまり興味を示さない。
あまり疲れさせても・・・と思い、また来るねと言い置き施設を後にする。
11月24日(月曜日) 雨
今日はスーちゃんを連れて福山のバラ公園に行ってみようと思っていた。ところが起きてみるとしとしとと雨が降っている。
スーちゃんのスリランカのお母さんは大きなお庭にバラを沢山植えておられ、バラが大好きらしい。
なのでスーちゃんもバラ公園に行こうと言うと、大喜びしていたのだが、この雨では・・・・。
毎日寒い!寒い!とふるえているスーちゃんにはとても雨の福山は耐えられまい。
「スーちゃんまた今度にしようね」と言うとあっさりOK。
お昼まで日本語能力試験が近いのでスーちゃんもそれに向けて猛勉強する。
午後から、スーちゃんが年賀状を買いたいと言うので、ソレイユ(ダイヤモンドシティ)に行くことにした。
雨のせいかソレイユは家族連れが沢山で、駐車場を捜すのも大変だ。
3階の双葉図書の文具店に行く。ありとあらゆる文房具、来年のカレンダー、手帳等が有り、スーちゃんは「全部買いたい!!!」と
すっかり魅せられている。日本はいいなぁ!!!と感嘆の声をあげる。
私自身も見ているだけでわくわくするほどである。スーちゃんも印刷した年賀状売り場でどれを買おうかと迷っている。
一時間ばかり売り場をウロウロし、一階のレストランで夕食を済ませて帰宅する。
11月27日(木曜日) 
今朝は少し暖かい。傘を持っていこうとするので、「要らないでしょう?」と言うと、「おかあさん、今日は雨が降るよ」と言い
大きな傘を持って出かけていった。
夕方は留学生会館で佐藤先生と日本語の勉強だ。帰宅は7時前ころだろう。
私は大学時代の友人とランチの予定だ。
レストランでお昼を食べている最中、「今から船に乗る。今晩は聡の所に泊まる」と連絡が入る。
やれやれ私の自由の日々も後3日で終わるなぁ・・・。
5時半過ぎ帰宅し、夕食の準備。スーちゃんはなかなか戻ってこない。日本語能力試験が近いので、きっと佐藤先生が力を入れて
スーちゃんとベトナムのチャンに時間をあてておられるのだろう。
結局帰宅したのは8時であった。
雨が沢山降っているので、近くのバス停まで迎えに行くと、丁度横断歩道で信号待ちをしているところだった。
クラクションを鳴らすと嬉しそうに車に乗り込んできた。