ホアンと稲垣夫婦のホームステイ日記

                                              愛子 記

     2004年 9月
9月2日 (木曜日)
9月に入ってあの猛烈な暑さの夏はどこへやら、涼しい風が吹き始めた。
私達は夏バテもせず、どうにかこの夏を乗り切れた。
いつもの様に仕事をしていると、携帯が私を呼んでいる。
あ!麗奈だ。今夏休みの彼女、我が家に来るのかな?と電話にでる。
「おかさん、何してる?あのねー、今おかさんち来た。もう一人びっくりする人居るんだよ、代わるね」と言い
「おかさん、ホアンでーす」と電話口で言う。
一瞬頭の中が混乱状態。「えー!まさか!!!うっそ〜!!」その声は!まさにホアン。
でも・・・そんな事ある訳無いよね。でも声はまさにホアンだ!
次の瞬間「おかさん!越で〜す」と電話口で聞こえる。
「あぁ!!越君なの!びっくりしたよー!」と私。
「おかさんち、来たんだけど、家開いてないよー入れん!」と言う。
勝手知ったるで、彼らは突然来て、裏口から我が家に入り、帰って来る私を驚かそうと
企んだのだが・・・・・。
たまたまいつも裏口のカギを掛けずに出かける私は、なぜか今日に限って頑丈な戸締りをして出かけた。
よりによって、今日!と言う日に運悪く来た彼らだった。
でも、もう時間は4時過ぎだ。「もうすぐ帰るから、近くの森林公園でも行って時間つぶししてて」と伝える。
夕食の買い物をして、急いで帰宅。
越君も麗奈も、こうして変わらず私達を訪ねてくれるのがとてもうれしい。
前に来てくれたのは春休みの時だった。

越君は五日市の自宅の近くにあるケーキ屋さんでバイトをしている。
とても評判の良いケーキ屋さんで、ドイツ人のシェフが作り出す独創的な味のケーキは
定評があるらしく、常にお客さんで一杯とか。
想像するに、越君はその人柄、働きぶりがいいのだろう、大学の長期休みにはあてにされ、
待っていて下さるらしい。
帰宅して、玄関に車はあるものの、肝心の二人がいない。
荷物の片付けをしていると、車を置いて、近くに散歩に行っていた二人が帰って来た。

とりあえず、お茶でも飲みましょう!と越君達とお茶の間に座る。
越君が裏の方から大きな発泡スチロールの箱を抱えて入って来た。

なんと、中から出てきたのは、あのバイト先のケーキ屋さんの評判のケーキだ。
温度を保つ為に、わざわざ発泡スチロールの箱に入れて持って来たらしい。
ああ!!嬉しい。
中には越君一押しのプリン、チョコレート、桃、ラズベリー等涎の出そうなケーキが並んでいる。
プリンの大好きな私は、一番にそれを選ぶ。下のカラメルが舌でとろける。
ほんとに美味しいね〜と言いながら、3人は瞬く間にケーキ一個づつをたいらげる。
「そろそろおとさん帰って来るよ」と腰をあげ、二人が手伝ってくれるなか、我が家の定番
オーストラリアン スープにとりかかる。
そして次のメニューは、これも定番のトンカツである。
越君も麗奈も家でしっかり料理の手伝いや、自分で台所に立つので、とっても手際が良い。
麗奈なんかは、魚一匹さばけるという。あっという間に下ごしらえが終わり丁度主人も帰宅した。
外見を見るととてもそんな事の出来る女の子には10人が10人見えないと思うのだが
その落差がまたなんとも心地よい。

越君の家庭でも、ご両親、特にお父様はイタリア料理が得意とか。
そんな環境の中、私の料理なんかとても足元にも及ばないと思うのに、
ご飯ひとつ炊いても、「おかさんちのご飯は最高なんだ!」と口を揃えて言ってくれる事は、
現実少し恥ずかしくもあり、最近流行の”びみょ〜う” な私の心情である。
普段はコレステロール値の高い主人相手に、肉無し、油もの無し、納豆に野菜の質素な食卓で、
美味しいともまずいとも言わず、もくもくと食べる主人に、次第に料理しない主婦と化してしまったし・・・。

あっという間に下ごしらえが終わり丁度主人も帰宅した。
今日は久々に”手のこんだ料理”となり、我が家の食卓はにぎやかだ。
麗奈は安芸府時代、ダイエットに挑戦し、自宅から40分くらいかけて歩いて通っていて
スリムなボディーを保っていたが、大学で声楽の道に進んだ為、声をしっかり出す為には
肉付きの良い体を要求されるらしく、かつての原形をとどめない見事なボディと化した。
まるではちきれそうな彼女の身体は健康的で、以前よりも可愛く、魅力的だと思う。
履いたジーパンがきつい!きつい!と言いながら、スープもしっかりお代わりしていた。

越君の大学生活も、いきいきと楽しく、いろんな目標を持ちながら、前に向って進んでいる。
この夏休みには、2週間かけて、タイに旅行すると言っていた。
これからの若者はグローバルな人間でなければならない。
そう言った意味で越君の通っている大学は国際的で、いろんな国籍の学生がいる。
韓国の友達の影響で、今は韓国語に挑戦しているし、ブルガリアの友達も出来たので
来年夏くらいにはブルガリアにも行きたいんだと目を輝かせている。
そして、コスタリカの友達からサルサを習っていると言い、ステップを披露してくれた。
結構さまになる越君だった。私も負けずスペイン語教室でキューバのイビスという先生から
ならっているビデオを見せると、「おかさん、ロボットみた〜い!」と笑われてしまった。
まるでやっこさんみたい。自分自身でも目を背けたくなるようなステップを踏んでいる。
恥ずかし〜い!!

後片付けをしている間、越君達は主人と色々な話をしている。
皆の事ビデオ撮ってホアンに送ってやろうか?と言うと、さっそくパフォーマンスしてくれる。
春から髪を伸ばし始めた越君は、肩までかかる長い髪を前にたらし、アメリカの何とか言う映画スターに
そっくりなんだといいながら、その格好をしてみせる。
サングラスをし、(本当はひげがいるらしいが・・・)その男優に成りきる越君だ。
麗奈がそれを見てころころと笑い転げている。

後片付けをを終え、泊まれるんでしょう?と聞くと、バイトが明日はあるし、帰らないと・・・と
言う二人。
パンクしそうな彼らのお腹も、うだうだ言っているうちに、落ち着いて来たのか
僕の持って来たケーキ、まだおとさんが食べてないよ!と言う。
そうだね!と冷蔵庫に行ったものの、そのケーキは冷凍庫の中でカチカチになっていた。
あーぁ、しばらく解凍するまでお預けね。
それでは・・・よく冷えたスイカを大皿に切り出すと、「おかさん、こんなに沢山!!」と言っていたが
15分も経つと、大きなお皿にはスイカの皮だけが並んでいた。

待ちきれない二人は、そろそろ解凍したかもしれないケーキを持ってくる。
そして、「おとさん、どれにする?」と箱を開ける。
こんどは、麗奈がプリン、おとさんは柑橘の果物を挟んだケーキを.
私はチョコレート色のケーキをお皿にとる。
どれも美味しいので、回してひとくちづつ皆で味わってみる。
プリンはまだシャリシャリと半解凍状態であったが、それでもとても美味しかった。
主人も糖尿病の事などすっかり忘れ、「うん、これはうまい!」と美味しいケーキに
舌鼓を打っていた。

話は延々とはずみ、結局二人が帰って行ったのは、夜2時過ぎであった。
越君も麗奈も、私達が全然歳取ってないね〜!!と嬉しい事を言ってくれたが
こうして変わらず私達を訪ねてくれる彼らのお蔭かもしれない。
感謝!!感謝!!
今度来てくれるのは、冬休みかな?
彼らの訪れを、首を長〜くして待っていよう。